勤勉で休みを取らない日本――。国際的にはそういったイメージがありますが、法定休日は欧米諸国と比べてもかなり多く、「法律で祝日を決めないと皆休まない」国民性を表している、とも言われます。そんな日本でも8月の中旬、いわゆる「お盆期間中」は休みを取る人も多く、帰省ラッシュ、U-ターンラッシュのニュースとともに、「数少ない、社会人も堂々と休める期間」となっています。
今日は、そんな少しのんびりしたお盆休みに聞くのをお勧めしたい、素敵な組曲、北欧の作曲家フルメリーの「フルート、弦楽とハープのための田園組曲 Op.13b」を取り上げます。
高名なピアニストに師事
1908年、建築士の父を持ち、スウェーデンのストックホルム郊外に生まれたグンナル・デ・フルメリーは地元スウェーデンの音大で学び、その後ウィーンに留学します。フランツ・リストの高弟だったピアニストにして作曲家、エミール・フォン・ザウアーに師事して学びます。北欧系の音楽家は、地理的条件と、言語的にゲルマン語系であるということもあり、音楽先進国に留学する、ということになるとドイツ語圏を選びがちです。フルメリーもその例にもれず、ウィーンをまず留学先に選んだのですが、この後、彼はさらに、別の国に渡ります。オーストリアやドイツとは文化的にも言語的にも対照的な国、フランスのパリに移動するのです。
パリでは高名なピアニスト、アルフレッド・コルトーに師事します。交通の便利になった現代でこそ珍しくない「国を変えての留学」ですが、フルメリーがウィーンとパリという2か所に留学先を選んだのは、どちらにも高名なピアニストが居住し、弟子をとっていたからと推測されます。彼は若いころ、ピアニストを志向していたことがわかります。彼はパリから帰国し、地元ストックホルムの音楽院でさらに学んだあと、母校で今度は教鞭をとることになります。
北欧の作曲家はドイツ語圏留学が多い・・・と書きましたが、留学先の作風に人間ですからどうしても影響されます。したがって、北欧の作曲家の作品は「ドイツ風」のものが多く見受けられます。しかし、フランスは19世紀末から20世紀初頭にかけて美術・音楽・文学などあらゆる芸術分野において、自国独自のカラーを持つ、「フランス風」の芸術の興隆を目指す人たちによって、ドイツ語圏に負けない才能を輩出しました。
クラシックのレパートリーにおいても、「フランス近代の音楽」と表現されるこの時期の音楽は、ドビュッシー、ラヴェルを筆頭とする作曲家によって、今でもクラシック音楽の主要なレパートリーとされる作品がたくさん生み出されました。
1曲あたりわずか2分程度
そんな芸術的最盛期を迎えていたフランスに、フルメリーはやってきて、おそらく、かなり影響されたのでしょう、今日取り上げた「フルート、弦楽とハープのための田園組曲」もかなりフランス風な響きを持っています。
全体は、5つの曲からなり、前奏曲・ガヴォット・サラバンド・シチリアーノ・フィナーレとなっています。タイトルだけ見ると、バロック時代に流行った、舞曲を並べた「舞曲組曲」のスタイルを意識して作られていますが、その響きは非常に近代的で斬新で、「新しいのに懐かしい」雰囲気を持っています。
もともとこの曲は、近代になってオーケストラの楽器から独立して独奏楽器となったフルートを主役として書かれています。J.Pランパルなどの偉大なフルーティストを輩出したフランスはフルートが主役となる作品が多く生み出される「フルート・レパートリー先進国」で、そういった意味でも、フルメリーのこの曲は、どこか「フランス風」です。
初稿はフルートをソロに、ピアノを伴奏として書かれていましたが、後に、彼は伴奏部分を弦楽オーケストラとハープの編成に書き直しました。すると、より一層、「広がる田園風景」が見えるほどのゆったりしたサウンドになり、大変人気が出ました。ちょっとした「フルート協奏的組曲」と考えてもよい弦楽伴奏版は、ピアノ版よりも演奏されることが多くなっています。
組曲、といっても1曲あたりの演奏時間はわずか2分程度、全部合わせても12分に満たない、かわいらしい「組曲」です。夏のリラックスしたお休みの時期にゆったりと聴くのに、大変おすすめの1曲です。
本田聖嗣