容易ならざる課題は、増税をどう実現するか ―「ポピュリズム」を乗り越える―
医療や介護の提供体制を変えるという処方箋はできていても、財源をどう確保するかが難題である。これから団塊の世代が、最も医療や介護を必要とする後期高齢期を迎える。毎年、増える費用をどう賄っていくか、頭が痛い。
特に、我が国の場合、社会保険料の確保は比較的しっかりとできているのに対し、税財源の方は、ほとんどうまくいっていない。
「日本の税というのは情けないほどに財源を調達する力が弱いです」
「消費税を上げるのに、何十年間も政治が七転八倒している姿を見ることができる一方で、リーマン・ショックの時も東日本大震災の年も、年金保険料、医療保険料も、介護保険料も上がっている様子をみれば想像できると思います」
難しいことはわかっていても、日本政府の債務残高、そして、高齢化に伴う社会保障給付への需要を考えれば、著者は、消費税だけでなく、所得税も、資産課税の増税も必要だと語る。
「昔から僕は、『すべての税目を増税する+α増税』とか『財源は全員野球』と言っているように、もう、消費税にも所得税にも資産課税にも頑張ってもらわなければなりません」
ただ、赤字国債を発行しながら、社会保障の給付を先行させるという「給付先行型福祉国家」となってしまった日本では、今後、仮に増税ができたとしても、その相当部分を財政再建に回さざるを得ず、こうした増税を国民に理解を得ることは容易ではないと指摘している。
「給付先行型福祉国家でスタートしたら増税分のすべてが社会保障に回らないという制約がある上に、いつもその他様々な状況が重なってしまうもので、そうした現象を紐解いて理解することを国民に求めることはおそらく無理だと思います」
確かに、長年にわたって続く巨額の赤字国債の発行、そして、二度にわたる消費税引き上げの延期という出来事からすれば、増税は生半可なことで実現できるものではない。それでも本書で著者が述べているように「無い袖を振りつづけたらどんな未来がやってくるのか・・・」を考えれば、私たちは、この課題を決して避けることはできない。
傷を深くしないためにも、できる限り早く乗り越えていかねばならず、そのための環境整備が求められている。
本書の「おわりに」で、著者は、昨今のイギリスのBrexitやアメリカ大統領選の結果など、「ポピュリズム」のリスクと指摘される出来事が相次いで起こっている状況を踏まえて、こう語る。
「社会保障制度は中間層の人たちの助け合いの制度であって、それは同時に社会を安定させる重要な政治制度なんです。この制度がどうあるかで、その後の世の中の歴史は大きく変わってしまうんですね。つまり、社会保障は、社会経済の影響を受けて形成されるという、世の中の結果であるという側面ばかりか、世の中のあり方に大きく影響を与える原因でもあるわけです」
私たちは、cool head but warm heartで、財源問題を含め、社会保障の姿を自ら選び取ってゆかなくてはならないのだ。
JOJO(厚生労働省)