伴走者が支えになって
あんまマッサージ指圧師・村木貴広さん(66歳)は、ゴビ砂漠とサハラ砂漠に参加した。出発する前「遺書を書いた」というほど不安だった。村木さんはマラソン歴10年。趣味で25~100キロのマラソンを走っていたが、250キロもの砂漠を走った経験はなかった。しかし、金さんの「日中韓の友好のために」という考えに突き動かされたという。
伴走者のリュックにつけたロープ、通称「絆ロープ」を村木さんが持って走るのだが、ゴビ砂漠を走って気付いたのは、50センチ四方の大きな石がごろごろしていること。伴走者が「stone!」(石)と叫んで教えてくれるのだが、うまく避けられず、転倒することがたびたび。また段差があるときは、「up」「down」、ヒドい段差は「big up」「 big down」と言い方を変えてくれた。
毎日、フルマラソンに相当する距離を走った。疲労は蓄積し、いつリタイアしてもおかしくない状況の中、完走できたのはなぜか。
「伴走者の存在です。伴走者は食事やトイレの補助などすべてにおいて手を貸してくれた。会社を2週間以上休み、参加費100万円を払って来てくれている。めげそうになったときは、「Can!Can!」(できる)といって励ましてくれた。彼らを裏切れるわけがないです」
完走の瞬間、3人で泣きながら抱き合った。
「感動でした。言葉は通じにくいけれど、気持ちは通じ合えました。当時は、日中韓の関係が悪く、レース参加前に、ニュースを見ていて、あまりいい感情は持っていなかった。でも、走り終えたあと、報道がすべてではない、信頼できる人がいるのだと実感できました」
2017年、鈴の音が目指したのは中国。ユネスコ世界遺産に登録された場所を走った。
(文・ノンフィクションライター 西所正道)