ワーグナーのオペラが大っ嫌い!
2つ目は、ワーグナーのオペラ、「トリスタンとイゾルデ」です。「ゴリウォーグのケークウォーク」の中間部に、明らかにそれと分かる形でオペラの有名なモチーフが引用され、こともあろうに、そのあとに、それを小馬鹿にする観客たちの笑い声と思しき音楽が添えられています。若いころ、熱狂的なワーグナー信者だったドビュッシーは、そのあと、強烈なアンチ・ワーグナーに転じ、フランスの音楽を求め続けた、という経緯がありました。
・・・ドイツのワーグナーの音楽は、フランス独自の音楽を追及していたこの時期のドビュッシーにとっては、たまらなく嫌いなものだったのです。
そんな、ドビュッシーは嫌っている2つのモチーフをこの曲に押し込めたのです。モチーフを、「おちょくった」扱いをしているので、作曲家ドビュッシーがそれらの音楽をからかっているのだ、ということは「一目瞭然」ならぬ「ひと聴き瞭然(?)」なのですが、それが、なんともコミカルな印象を曲に与え、結果として、大変楽しい、「子供の領分」の締めくくりにふさわしい華やかな曲となって結実したのです。
嫌いな素材で美しく楽しい曲を作ってしまう・・ちょっと斜に構えたフランスの作曲家らしいドビュッシーが作り上げた、小さな名曲です。
本田聖嗣