先週は、古典派の末期に生まれてあえなく寿命を終えた「アルペジョーネ」という楽器とその楽器のために書かれた数少ない曲の代表として、シューベルトの「アルペジョーネ」ソナタを取り上げました。アルペジョーネはメジャー楽器になり損ねたわけですが、いわば、伝統的な「ヴァイオリン属」の楽器であるチェロやヴィオラを超えることができなかったわけです。
それでは、アルペジョーネの挑戦を跳ねのけたヴァイオリン属・・代表としてヴァイオリンに登場してもらいますが・・はどのように生まれたのでしょうか?
あれ? アルペジョーネとそっくり?
実は、ヴァイオリンが生まれる以前に、ヴィオール属という擦弦楽器がヨーロッパでは多く使われていました。以前は、ヴァイオリン属はヴィオール属の改良・進化楽器という考え方もありましたが、現在では、この2つの楽器の流れは完全に別個のものだ、とされています。
現在では「復元された古楽器」としてしか存在しないヴィォール属の楽器はどのような特徴があったかというと(もちろん、長い歴史の間には様々な改良が加えられるので一定ではないのですが)、ヴァイオリンと違うところを挙げると、指板に音程を取りやすくするためのフレットがついていて、弦の数がヴァイオリンより多く五弦や六弦のものがほとんどだった、ということです。あれ?これはアルペジョーネとそっくりですね。アルペジョーネは、「先祖返り」の側面もあったわけです。
しかし、アルペジョーネが発明された古典派後期~ロマン派の時代、19世紀初頭には、ヴィオール属はほとんど絶滅していました。すでにヴァイオリン属の天下だったのです。
16世紀半ば、1550年ごろに突如登場したと考えられているヴァイオリンとその仲間、ヴァイオリン属の楽器は、完全に、それ以外の擦弦楽器を駆逐してしまうほど、優秀な性能を持った、そして、21世紀の現代まで通用する、すさまじい発明だったのです。