楽しげな木管楽器同士の会話
そんな彼の、唯一の木管アンサンブルのための室内楽作品が、1956年に完成された「夏の音楽」です。1953年にデトロイト室内楽ソサエティからの依頼で着手された作品です。それ以前の戦時中に書かれて未発表だった作品の要素を一部転用したりして完成させていますが、それ以外にも、冒頭の「遅く、そして気怠く」と書かれた部分には、「アメリカ独自音楽の祖」といもいうべきガーシュウィンの「サマータイム」の精神的影響が見られますし、そのあとの、クラリネットの素早いパッセージなどは、アメリカにわたってきていたロシアの作曲家、ストラヴィンスキーの革命的代表作「春の祭典」の濃厚な影響が聴きとれます。
中間部は、楽しげな木管楽器同士の会話・・・あたかもぺちゃくちゃおしゃべりをしているようなパッセージ・・・・が展開しますが、最後はまた、冒頭の「遅く、そして気怠く」のシーンに戻って、静かに曲を閉じます。12分ほどの単一楽章の楽曲ですが、初演時より聴衆には好意をもって受け入れられ、現在では、木管五重奏の重要なレパートリーとなっています。21世紀の我々からすると、「20世紀のちょっとクラシカルな」かわいらしい夏の小品です。
本田聖嗣