もう夢は叶っている
87年という年号で思い出すことがいくつもある。
その年、日本の音楽業界で「ロック元年」という言葉が使われていた。反体制、アンダーグラウンドのイメージが強かったロックとは違う新しい世代。佐野元春や尾崎豊、ハウンド・ドッグやBOO/WY、ストリート・スライダーズやレッド・ウォーリアーズ。いずれも80年代にデビューした人たち。その中にブルーハーツもいた。
87年の夏には、熊本県阿蘇の山中に約7万人以上を集めた野外オールナイトイベント「BEAT CHILD」や初の大規模チャリティロックコンサート「広島ピースコンサート」も行われている。中心になったのがそれらのバンドやアーティストだった。猫も杓子もバンドを組むと言われた空前のバンドブームの幕開けとなったのがその年だった。
でも、その頃のバンドはもう存在していない。
その年にスピッツは結成された。
デビューしたのは、その4年後、91年だった。
バンドブーム最後の世代、というと聞こえが良いかもしれない。むしろ、「乗り遅れた」ということになるのだろうか。デビューが決まらないまま地道なライブ活動を続けている日々は、一方でブームが崩壊してゆく過程でもあった。栄枯盛衰を目の当たりにしてきたバンド少年が彼らだったとも言ってよさそうだ。
去年のアルバム「醒めない」の時のインタビューで三輪テツヤは「俺たち、夢はロフトに出ることでしたから、もう夢は叶ってるんです」と言った。
やはり前出の「月刊カドカワ」の中で草野マサムネはデビューの時のことを「必要以上に多くの人に自分のことが知れ渡ることに対してものすごく構えていたし、警戒していた」とも話している。
流されない。自分達を売り渡さない。安易な妥協も過大な対価も求めない。そんな軌跡は「「CYCLE HIT 1991~2017 Spitz Complete Single Collection-30th Anniversary BOX-」に刻まれている。
「まさにスピッツ入門編ともいえる30周年45曲入り3枚組」――。
アルバムの資料にはそんなコピーがあった。
シングル、という形態がこんなに軽視されている時代はかつてなかっただろう。でも、収録45曲には、シングルだからこそ見えてくるものがある。彼らが何にこだわってきたか、何を歌おうとしてきたかを感じ取るヒントがここにある。
7月1日から30周年ツアー「THIRTY30FIFTY50」が始まっている。今年はメンバー4人が50代を迎える年でもある。
30年前、彼らがどんなビートパンク少年だったか。「1987→」を聞いて想像してみるのも楽しいかもしれない。音楽は年齢を超えて行く。
(タケ)