「石畳みたいだ」「とてもオシャレで畳の新しい可能性みたいなのを感じました」――畳は長方形が一般的な形状だが、幾何学的な形が組み合わさった畳があるとして、インターネット上で話題となっている。
製造・販売を手がけるのは、老舗畳メーカー「草新舎」だ。J-CASTトレンドでは、製作の経緯や商品に込められた思いを、同社の髙橋寿社長に聞いた。
デザインパターンを自由に選べる
今回話題となっているのは、2013年1月から発売しているデザイン畳「XT(エクスティー)」だ。高度な職人技とコンピューターアルゴリズムを組み合わせ、複雑な形状を実現。デザインパターンを自由に選べる画期的な商品だ。
パーツごとに畳の目の向きが違うため、光の当たり具合によって色の濃淡や光沢も微妙に変化するのも特徴の1つ。従来の畳の厚さで敷き詰めるタイプと、その半分の厚さでパズルのように床に並べる2つの設置方法がある。
価格は、一般的な畳の5~10倍ほど。法人・個人問わず受注生産で受け付けている。
製作のきっかけは「震災」
宮城県石巻市で、藁畳床(わらたたみどこ)の製造会社として1946年に創業した「草新舎」。「国産伝統素材を積極的に利用し、畳を通して日本文化の継承発展に貢献する」を理念とし、畳は、一枚一枚職人の手作業で仕上げられる。
現在では、畳の製造・施工の専門店として、社員数5名と少数精鋭ながら、国宝・重要文化財を含む寺社仏閣や、地元の公共施設などに畳を納入している。
この斬新な畳はどういう経緯で誕生したのか。3代目社長の高橋さんは、
「きっかけは東日本大震災でした」
と話す。
構想は10年以上前からあったというが、実際に製品化を目指したのは、自社工場の被災経験だった。震災後はしばらく営業がままならず、12年5月ごろに再開のめどが立つも、得意先も津波や地震の被害にあっていたため、仕事の受注が激減した。
この「空白期」に、「伝統的な畳を守るため、その利用範囲を広げたい」というかねてからの問題意識も相まって、製品化に向け動いた。
変形技術はすでに持っていた。200以上の寺社仏閣の仕事を続ける中で、寺の丸い柱や斜めの廊下にあった畳の加工技術を確立していたのだ。その技術を生かし、13年1月に変形畳「草新シリーズ」を販売開始した。
一方で限界もあった。「例えば市松模様のように、正方形や平行四辺形で敷き詰めていく畳のラインナップでした」という高橋社長。せっかく形状を工夫しても、床材として和風の域を出ないことが悩みだった。
そんな折、外部のクリエイターとのコラボレーションから新しい形状が生まれた。それが「エクスティー」誕生につながる。
コンピューターアルゴリズムを使ったデザインを設計支援ツール「CAD(キャド)」で図面にして設計する。これを採用したことで、デザインの自由度が増し、複雑なパターンの畳を製作できるようになった。
従来の畳とは「一線を画す」
高橋社長は、「エクスティー」の魅力を、
「畳といえば和風という既成概念を壊し、若者が集うスタイリッシュなゲストハウスからエグゼクティブ向けフィットネスジムのラウンジまで、伝統的な畳の利用範囲が広がっています」
と胸を張る。
エクスティーの販売を通じて、「一般の消費者の方に新しい畳として受け取ってもらい、それが伝統的な畳の普及や利点の再発見につながれば嬉しいです」と話す。
今後の目標を尋ねると、
「複雑な形状が珍しがられるのですが、さわり心地や香りは実際に触れてみてはじめてわかるものです。なので、今後はより消費者に直接体験してもらえるような場を作っていきたい」
と展望を語った。