食べ物の味やにおいは、昔の記憶を一瞬で呼び戻してくれることがある。その懐かしさに、胸がいっぱいになった経験を持つ方も多いのでは?
エッセイストの森下典子さんは、そんな食べ物にまつわる思い出を企業のウェブサイトや冊子のコラムなどで14年間綴ってきた。
書き溜めた150編のエッセイから22編を厳選し、2017年7月7日に文春文庫から『こいしいたべもの』を出版する。
本書は、2014年に同社から出版し、好評のため重版を重ねているエッセイ集『いとしいたべもの』の続編だ。
徹夜のカップ焼きそばの味
収録されたエピソードには、子どものころ家族みんなで食べたカレーライスの思い出がある。ルーとごはんを混ぜるか混ぜないか。混ぜない派の森下さんに対し、お父さんは混ぜる派だった。中学生の思春期に「気持ち悪いからやめてくれ」とはいくら娘でも言えなかったという。カップ麺の「ペヤングソースやきそば」の味は、徹夜で仕事に熱中した青春時代の思い出につながる。
また、茶道にもくわしいことから、お茶席や和菓子にまつわる話もある。「蛍」をイメージして作られた和菓子の回では、9歳の夏休みに岩手の田んぼで見た蛍の光の情景が豊かに描かれている。
優しい視点で書かれたユーモアたっぷりな文章と、著者が自ら描いた繊細なタッチのイラストで胸にホロリとくるエッセイ集。
価格は700円(税抜)。