言わずと知れた東京屈指の繁華街・新宿歌舞伎町。ネオン煌めく不夜城には、300近いホストクラブがひしめいている。
近年になり、「ネオホスト」「出張ホスト」「女子会利用」など時代のニーズを反映したトレンドが勃興し、飽くなき女性たちの欲望を満たしているが、長年業界にはびこる「ある課題」は依然として横たわったままだ。
J-CASTトレンドでは、大手ホストクラブの広報担当者と現役ホストに、業界の「裏側」を聞いた。
パーカーで接客
読者は、ホストに対しどんなイメージをお持ちだろうか。ギラギラしたスーツに身を包み、明るめの髪を整髪料でがっちりセット――こんな姿を思い浮かべる人は少なくないのでは。
だがここ数年、カジュアルな服装や髪形を志向する「ネオホスト」と呼ばれるキャストが一般化し始めている。短髪黒髪にパーカーと、ラフな格好での接客が珍しくない。
主な要因として、ホストの「低年齢化」が挙げられるという。歌舞伎町を中心に23店舗のホストクラブを経営する「冬月グループ」の広報・井上氏は、
「これまでは20代半ばのキャストが中心でしたが、大学生など若いキャストが増え、彼らがカジュアル化をけん引したと思います」
と推測する。
2013年には、ネオホスト向けの月刊誌『Y+ワイプラス』(電王堂出版)も誕生。一般的な男性向けファッション誌と見違えるような誌面作りが特徴で、流行りのファッションや接客術などを紹介している。
それに伴い、客層も拡大した。これまでは年配女性や、キャバクラなどで働くいわゆる「夜職」の来店が多かったが、女子会や仕事終わりに訪れる若い女性も増えている。
多様化したニーズを受けとめるべく、業態もバラエティ豊かに発展を続ける。従来のフリータイム制のホストクラブに加え、時間料金制で居酒屋などを利用するのと変わらない手軽さが魅力の「メンズキャバクラ」や、店舗以外で甘いひと時を過ごせる「出張ホストクラブ」、男女同伴客を対象にダンスやDJなどのショーが繰り広げられる「サパークラブ」など新たなプレイヤーの参入が目立つ。
ホストが抱える「将来への不安」
こうした変化もあり、大いに沸くホスト業界だが、「変えたいけど、変えられない、旧態依然とした部分もあります」。先述の井上氏は、こうも漏らす。
ホスト業界で働くキャストの共通の悩みとして「将来への不安」があるという。
「一生ホストとして食べていける数には当然限度があります。キャストの中から店舗責任者や幹部になれるのは一握りです。そのため業界でよく言われているのが、『キャストは稼がせるだけ稼がせてあとはポイ捨て。その先は自分らの責任だよ』」
同社では、大手人材会社と手を組み転職・起業支援を行なったり、営業代行やセミナー講師といったホストのスキルを生かせる仕事を斡旋したりと「キャリア支援」に力を入れている。だが、業界全体ではまだまだ整備が進んでいないそうだ。
現在、キャスト兼店舗責任者として活躍する葵未来さん(28)も、「ホスト業界はまだまだ未熟」と指摘する。
「歌舞伎町には大きいホストグループが3、4ありますが、セカンドキャリアをサポートしてくれるところは全くない」。
他方で、ホストで身に付くスキルは他の業界でも十分に応用が効く、と胸を張る。大学1年~大学院卒業までの6年間、ホストクラブで週1のアルバイトをしていた葵さん。卒業後は、コンサルティング会社で半年間、営業職に就いた。
「ホストは自分を売る仕事。自分にどれだけ価値を持ってもらえるかが重要です。そこで身に付いたコミュニケーション能力では誰にも負けない自信があったので、就活の時も、就職してからも、そのスキルはとても役に立った」。
悲しいふりをしたコンサル時代
コンサルティング時代のエピソードを尋ねると、
「ホスト時代に怒る側と怒られる側の両方を経験したから、社会人になって上司からボロクソ叱られても『この人は伝えたいことをうまく伝えられないから、怒っているんだな』ってわかっちゃう。相手の気持ちがわかるからすんなり受け入れられるし、ホストでメンタルは鍛えられたからへこたれない。するとまた怒られるので、悲しい振りをしなくちゃいけない(笑)」
と、社会人1年目とは思えない経験を披露してくれた。
第二の人生に不安を持つキャストがいる反面、葵さんのようにホストでの経験を生かして未知の世界に飛び込む「猛者」もいる。葵さんはインタビューの最後、
「もちろん会社から従業員へのキャリア支援も必要ですが、セカンドキャリアは自分で作っていくんだという人間もいる。結果を出す人間は自分で道を切り開いていく方ではないでしょうか」
とコメントした。