タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」
J-POPというのは日本の四季に即した音楽なのだと思う。春夏秋冬、どんな季節にもその季節にあった歌がある。その季節だからこそ生まれてくる歌。春には春の歌があり、夏には夏のドラマが歌われる。
その季節ならではの生活を彩る歌――。
これだけ季節感に富んだ音楽を持っている国は日本だけだろう。
もうすぐ梅雨が終わる、そして夏が来る。
夏と言えば、もう説明の必要もないかもしれない。
TUBEの季節である。
海辺で育った若者ではなかった
1985年、「ベストセラー・サマー」でデビュー、一昨年にデビュー30周年を迎えた。今年も6月7日に新作が出た。24年ぶりのミニアルバムのタイトルは「sunny day」。夏の太陽に照らされた一日。32年だから「サンニー」という冗句も込められている。
ただ、夏を歌ってきたのはTUBEだけではない。他のアーティストが歌った夏の名曲も数多くある。
にも関わらず、真っ先にTUBEの名前が挙がるのは、それだけ定期的に夏を歌ってきたからこそなのは言うまでもない。その反面、それだけ同じ季節を歌う事が、バンドやアーティストにとって危険を伴うという側面もある。つまり「マンネリ」という落とし穴だ。事実、彼らのキャリアの中には「夏バンド」と言われることから抜け出そうとした時期もある。そこを超えての30年だということも重要だろう。
TUBEの歌う夏が、なぜそれだけ息の長いものになっているのか。理由はいくつかあるように思う。
一つは、彼ら自身が海辺で育った若者ではなかったこともあるのではないだろうか。ヴォーカルの前田亘輝は神奈川県の厚木市、ギターの春畑道哉は東京都町田市、ベースの角野秀行とドラムの松本玲二は神奈川県の座間市出身である。海まで歩いてゆけるとか、自分の家から海が見えるという環境で暮らしていたわけではない。それでもアマチュア時代のバンド名はサーフィン用語の「パイプライン」である。
海辺で育った人と話していると、必ずしも夏が好きではないと言う声を聞くことがある。特に海水浴客が殺到する夏休みは最悪、という人もいる。一番好きな季節は、人気がなくなった秋の海だったりする。
彼らはそうではない。
夏休みが来ないとおおっぴらに海に行けない。早く夏が来ないか、一日千秋の思いで待ち焦がれている。やっとその季節が来たという解放感に溢れている。水着の女性との一夏の出会いに全てを賭けようとする。そんな誰でもが思い当たる一喜一憂がそのまま歌になっている。
J-POPとは何か。
そう聞かれる時に、アメリカやイギリスの音楽に影響された日本語のポップミュージックと答えることにしている。TUBEの音楽の根底にはイギリスやアメリカのハードロックがある。そうした音楽特有のスケールの大きなメロディーに乗って「日本の夏」が歌われる。夏バンドを決定づけた曲の一つ「あー夏休み」は「湘南で見た葦簀の君」で始まっている。「浴衣に花火」「蚊帳の外の鈴虫」まで登場する。ハワイやカリフォルニアではない日本の夏の風物詩。彼ら自身の生活感。まさにJ-POPだ。