2017年7月2日に投開票される東京都議会議員選挙は、かつてないほど都民の関心を集めている。有権者にとって判断の基本となるのは立候補者のプロフィールや主張、公約。それらをまとめた選挙公報はインターネットの普及によって誰でもアクセスできるようになった。ところが視覚障がい者はネット上の選挙公報を読むことができず、情報格差が生じている。
IT大手のヤフーは2017年6月22日、Webページを音声で読み上げるソフトウェアを使って立候補者や政党の情報に接することができる、視覚障がい者向け選挙情報サイト「Yahoo!JAPAN 聞こえる選挙」を公開した。
ネットにアップされている選挙公報の問題点
Webページを音声で読み上げるソフトは一般にスクリーンリーダーと呼ばれる。総務省の調査によれば、視覚障がい者の91.7%がインターネットを利用しており、多くの人がスクリーンリーダーを使って情報を収集している。MacはVoiceOver(ボイスオーバー)というソフトを標準搭載している。Windowsの日本語環境では高知システム開発のPC- Talkerが圧倒的なシェアを占める。
選挙公報は、総務省の通知によって「画像化したPDF」による掲載が義務づけられているため、音声読み上げソフトでは対応できない。
こうした状況に対して問題提起を行うためヤフーは「聞こえる選挙」を立ち上げた。東京都議選はその第一弾。
Webブラウザで「聞こえる選挙」を開くと、既に起動しているスクリーンリーダーがページの各領域に埋め込まれているテキスト情報を合成音で読み上げる。さらにユーザーがカーソルキーや各種キーを動かすことで、各ページのテキスト情報が合成音で流れる。
サイトの開設・運営にあたっては、選挙ドットコムや早稲田大学マニフェスト研究所が協力した。22日現在、「都議選立候補予定者一覧」「各政党への政策に関するアンケートの回答内容」「都議選に関するコラム」が掲載されている。「立候補者一覧」は26日にアップデートするほか、28日には選挙公報のテキスト版を掲出する。投開票日翌日の7月3日以降に選挙開票速報をテキストで掲載する予定。
サイトの開発にあたったヤフーのマーケティング&コミュニケーション本部の鈴木宏一さんは、「ヤフージャパンは、ITを使って人や社会の課題を解決する『課題解決エンジン』をミッションにしている。注目の集まる東京都議会議員選挙で実施することで、世の中に広くこの課題を伝え、解決の一歩になれば」と胸を張った。
視覚障がい者の評価は
鈴木さんの説明に続いて、ドイツ発祥の体感型ワークショップ「NPO法人Dialog in the Dark Japan(ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン)」のスタッフである桧山晃さんがデモンストレーションを行った。
生まれつき目が見えない桧山さん。しかし日頃からiPhoneを使いこなしており、コンピューターに対するアレルギーはない。鈴木さんのサポートを受けながら、桧山さんはノートパソコンで「聞こえる選挙」にアクセスする。自らカーソルキーを操作してページ内のテキストを選ぶと――、ソフトがすごい速さで読み上げていく。健常者であるJ-CASTニュース トレンドの記者Iは聞き取るのがやっとだった。対照的に桧山さんは「これでも遅いくらい」と余裕の表情でつぶやく。目が見えないことで、聴覚が研ぎすまされているからだろうか。
実はサイト情報をテキスト化するだけでは、耳で情報を集める人にとって親切になったとは必ずしもいえない。タグ付けがおかしかったり、適切な見出しが付けられていなかったり、文書の構成が論理的でなかったり、画像の代替テキストがいい加減だったりすると、スクリーンリーダー利用者は内容の理解に苦労させられる。つまり、発信する側の「伝える基本」がしっかりしていないといけない。「聞こえる選挙」の制作にあたっては、視覚障がい者や専門家、支援団体の意見を取り入れることで、アクセシビリティ(利用しやすさ)に配慮している。
桧山さんはデモンストレーション終了後、「ほしい情報にすぐにアクセスできて、使いやすいと感じました」と満足げに感想を述べた。
ちなみに健常者が「聞こえる選挙」を開くと、視覚障がい者が普段どのような現実に直面し、そしてスクリーンリーダーでどんな合成音を聞いているか、疑似体験できる仕組みが用意されている。興味をもった人は一度チェックを。
ヤフーが視覚障がい者34人に実施した「選挙情報の取得に関するアンケート」によれば、6割以上が投票に積極的で(図表1)、今回の都議選について9割が投票の意向を示している(図表2)。一方、これまで投票に積極的でなかった人にその理由を聞くと、「選挙立候補者の情報がないので、投票意欲がわかない」「選挙に関する情報を簡単に調べられるサイトがない」といった声が寄せられた。
同社の取り組みはまだ始まったばかりだが、選挙に関する情報提供のあり方に一石を投じるか。