北海道を除く日本列島は梅雨に入るため、6月は日照時間が少なくなりがちですが、北半球の6月は本来、1年で最も太陽が見られる季節です。2017年は6月21日が夏至の日、つまり最も昼が長い日・・となります。気体である空気と、個体の地面の蓄熱の仕組みが違うため、1年で1番暑くなるのはもう少し後の7、8月となりますが、紫外線も本当に強いのは6月だったりします。
クラシック音楽のホームランド、ヨーロッパは日本より高緯度地帯にあるため、夏の時期はかなり昼の時間が長くなります。その上サマータイムを導入している国も多いため、私の経験でいえば、フランスの夏季は夜11時ごろまで太陽が出ているので、日本の感覚で行くと驚くこともあります。
さらに高緯度地帯に行くと、「白夜」といって、1日中太陽が地平線の下に沈まないこともあるのは、多くの方がご存知です。
そんな白夜のある北欧の国、スウェーデンの作曲家の作品を、今日は取り上げましょう。
ヒューゴ・アルヴェーンの「夏至の徹夜祭」です。
アルヴェーンの代表曲
1872年首都ストックホルムに生まれたアルヴェーンは、地元のストックホルム王立音楽院で研鑽を積みます。彼が主に学んだのはヴァイオリンで、作曲は音楽院以外のプライヴェートレッスンで学びました。卒業後は、王立オペラ座やスウェーデン王立管弦楽団のヴァイオリニストとしてしばらく活躍しますが、さらなる研鑽のためにクラシック先進国であるベルギーのブリュッセルに渡ってヴァイオリンを、そして、ロマン派の総本山たるドイツのドレスデンで指揮を学びます。故郷に戻って、音楽院の作曲科の教師となりますが、指揮者としての活躍も多く、スウェーデンに戻った後も、指揮者として、ヨーロッパの様々な国で客演指揮者として活躍します。
そんなアルヴェーンが、1903年に作曲した作品が、「スウェーデン狂詩曲 第1番 Op.19 『夏至の徹夜祭』」です。彼はこのスウェーデン狂詩曲を3曲書きましたが、この第1番が一番有名です。スウェーデンの素朴な民謡を思わせるメロディーから始まるこの曲は、親しみやすく、いろいろなテーマ音楽などに使われることも多く、また、全体でも12~3分ほどの管弦楽曲であるため取り上げられる機会も多いので、今ではすっかりアルヴェーンの代表曲のようになっています。
作品名は知らなくても「どこかで耳にしたことがあるな」という曲かもしれません。ぜひ夏至のこの時期に、聴いてみてください。現地スウェーデンでは、夏至の前の土曜日とその前日2日間が祝日になり、盛大に「夏至祭」が開かれるところが多いそうですが、雨天でも決行されるというその祭・・・短いかもしれないけど、ついに夏がやってきた!という喜びがあふれているスウェーデンの人々の様子が目に浮かびます。
スウェーデン音楽界に差し込んだ夏の太陽の光
19世紀後半から20世紀初頭にかけては、19世紀前半にドイツで起こった「ロマン派音楽」の影響の後、周辺の各国で地元の民謡や舞曲のリズムを生かした「国民楽派」と呼ばれるようになる作曲家たちが次々に現れて「自国のクラシック音楽」を確立した時期となります。北欧でも、ノルウェーのグリーグ(1843年生まれ)、フィンランドのシベリウス(1865年生まれ)などが活躍しますが、彼らから少し下の世代であるアルヴェーンも、いかにも北欧らしい「夏至」をテーマにしたこの曲などを作曲することによって、スウェーデンを代表する「国民楽派」の作曲家とみなされるようになります。
アルヴェーンの作品はこの曲を含め、20世紀に入ってから作曲されたものも多く、すでに「先進国」ドイツやオーストリアでは、調性も崩壊し、いわゆる「現代曲」がもてはやされるようになっていましたので、時代遅れ、ともとらえられかねない作風でしたが、さらに時代が下った今日から見ると、その素朴な美しさは後期ロマン派としてふさわしい作品たちで、アルヴェーンは近代スウェーデンを代表する作曲家として評価されています。
スウェーデン狂詩曲 第1番「夏至の徹夜祭」は文字通り、スウェーデン音楽界に差し込んだ夏の太陽の光だったのかもしれません。
本田聖嗣