タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」
音楽というのは溢れてくるもの――。
そんな風に思わせてくれるアーティストは多くない。そして、そんな風に感じさせてくれるライブも、である。
紅白歌合戦でやっと知られる
例えば、ロックとかジャズとか、フォーク、あるいはクラシックでもいい。音楽を語る時に使われるジャンルやスタイルに収まらない自由な演奏。ひとつの曲の中にいくつもの要素があり、それぞれの曲によってしなやかに表情を変える。喜怒哀楽という分類が出来ないくらいに優しくて悲しくて愛おしく激しい感情が豊かにとめどなく溢れ出している――。
RADWIMPSがアルバム「人間開花」を携えて2月にスタートしたアリーナツアー「Hyuman Bloom Tour 2017」のセミファイナル。5月9日、日本武道館でのライブは、そういうライブだった。
2016年はRADWIMPSの年だった。
彼らが音楽を担当した映画『君の名は。』が記録的なヒットを記録したのはまだ記憶に新しい。映画公開2日前に発売されたサウンドトラックのアルバム「君の名は。」がアルバムチャート1位、11月に発売されたオリジナルアルバム「人間開花」も1位。1年間に2枚のアルバムを1位に送り込んだ。
RADWIMPSは、ヴォーカル・ギター、野田洋次郎、ギター・コーラス、桑原彰、ベース・コーラス、武田祐介、今は体調不良で休養中のドラム・コーラス、山口智史の4人組。全員が85年生まれ。結成は高校生の時だ。メジャーデビューは2005年。一昨年が10周年。Mr.Childrenやスピッツ、いきものがかり、ONE OK ROCKなど、今のシーンを代表するバンドやアーティスト11組が日替わりで登場するツアーも行った。
とはいえ、様々な音楽がミックスされた曲調と現代詩の世界からも評価の高い言葉の世界が与えてきた影響力と茶の間などでの一般的な知名度が一致していないバンドでもあった。初出場となった年末の紅白歌合戦で彼らを知ったという人も多かったのではないだろうか。
『君の名は。』の新海誠監督は自身のサイトで「実現の可能性も考えずに好きだから依頼した」と明かしている。野田洋次郎が、まだ絵コンテが出来る前の第一稿を読んで書いたのが主題歌4曲の中の一曲「前前前世」だった。
人の生命はどこから来て、どこに行くのか、愛する人との出会いや巡り会いの不思議は運命的なものがあるのではないだろうか。映画『君の名は。』で描かれていたテーマは、RADWIMPSがデビュー以来歌ってきたことと重なり合った。
人の生死が考えさせること。生きたくても生きられない人がいること、世の中には不条理や不平等や不公正が暴力的にまかり通っていること、その中で人と人が愛し合うことがいかに儚く奇跡的なのかということ。彼らが10代だったインディーズ時代の2004年に出たシングル「祈跡」では「それぞれの命が生んだ、一人の祈りが生んだ歌がここにある」と歌っていた。「それぞれ」の中には「僕や君」だけでなく「地球」も含まれていた。
10年間やってきたことを信じよう
「今までは迷ったら辞めてました。石橋を叩いても純粋なものを作ろうとしてました。今回のアルバムは、迷うくらいなら素直に作品に落とし込みたい、今、自分の持っている部分を出し尽くしたい。10年間やってきたことを信じてみよう、ここまで言ってもいいんじゃないかとやっと思えるようになりました。今までは苦しみが多くて、出来上がったものを素直に聞けなかった。このアルバムは今までで一番素直に聞けます」
作詞作曲をしている野田洋次郎は、新作アルバム「人間開花」について、筆者が担当しているFM NACK5の番組「J-POP TALKIN'」(土曜日22時~22時30分)のインタビューでそう言った。
全ての扉が開いた――。
アルバム「人間開花」の感想はそれだった。
手垢のついたようなことはやらない。これまでのアルバムにあった禁欲的なくらいに張り詰めた表現よりも、溢れんばかりの言葉と歌と演奏が全編にわたって伸びやかに展開されていた。
象徴的だったのが、アルバムの中の「トアルハルノヒ」だった。「14才からずっと彼らを聞いてきた21才のハル」という女性との出会い。自分が「書きなぐった夢」や「恥じらいもなく晒してきた本音」が一人の人生に残して来た影響を目の当たりにして思うこと。「ロックバンドなんてもんをやってきてよかった」とまで歌っていた。
野田洋次郎は、そのインタビューでこう言った。
「音楽の循環というか。自分の書いたものが聞いてくれた人の人生に影響を与える。そして、その人たちからももらう。僕らが影響を受ける。4、5年じゃ分からなかったことですし。10年経って知る。すごい感慨でした。今までは自分一人で作ってましたけど、『対人』というのが強くなりましたね。届けたい相手がそこにいるということを意識したし、誰かの目を見て歌うようになりました」
まさに、そういうライブだった。
本編の大詰め、「前前前世」を歌う前に、彼は「ずっと苦しみの中で音楽を作ってて10年前の俺たちを見た人がこの姿を見てびっくりしてるかもしれない」「曲によっては、この曲、何、気持ち悪いとか思うものもあると思うけど、ウミみたいなものでそういうのも定期的に産み落とさないと。ハッピーなことばかりじゃないし、今、一番この世の中に落としたいものを作って行きたい」
と言いつつ、RADWIMPSは「俺らの力じゃなくて、あなたたちが育ててくれた」と締めくくっていた。
メロデイがあるから伝わること。
音があるから感じられること。
言葉だけでは表せないこと、言葉があるから表現しきれないこと。バンドという枠だけでは伝えきれないこと。スタイルから解放された音楽とでも言おうか。
6月、彼らはアジアに向かう。
その先で何が開花するのか。
野田洋次郎は、幼少期を海外で過ごしている。「君の名は。」のサウンドトラックが英語詞版も海外で発売されている。演奏力だけでなく、言葉の意味も含め、日本のロック、日本のバンドとして胸を張って世界に出て行って欲しいと思わせるライブだった。
(タケ)