10年間やってきたことを信じよう
「今までは迷ったら辞めてました。石橋を叩いても純粋なものを作ろうとしてました。今回のアルバムは、迷うくらいなら素直に作品に落とし込みたい、今、自分の持っている部分を出し尽くしたい。10年間やってきたことを信じてみよう、ここまで言ってもいいんじゃないかとやっと思えるようになりました。今までは苦しみが多くて、出来上がったものを素直に聞けなかった。このアルバムは今までで一番素直に聞けます」
作詞作曲をしている野田洋次郎は、新作アルバム「人間開花」について、筆者が担当しているFM NACK5の番組「J-POP TALKIN'」(土曜日22時~22時30分)のインタビューでそう言った。
全ての扉が開いた――。
アルバム「人間開花」の感想はそれだった。
手垢のついたようなことはやらない。これまでのアルバムにあった禁欲的なくらいに張り詰めた表現よりも、溢れんばかりの言葉と歌と演奏が全編にわたって伸びやかに展開されていた。
象徴的だったのが、アルバムの中の「トアルハルノヒ」だった。「14才からずっと彼らを聞いてきた21才のハル」という女性との出会い。自分が「書きなぐった夢」や「恥じらいもなく晒してきた本音」が一人の人生に残して来た影響を目の当たりにして思うこと。「ロックバンドなんてもんをやってきてよかった」とまで歌っていた。
野田洋次郎は、そのインタビューでこう言った。
「音楽の循環というか。自分の書いたものが聞いてくれた人の人生に影響を与える。そして、その人たちからももらう。僕らが影響を受ける。4、5年じゃ分からなかったことですし。10年経って知る。すごい感慨でした。今までは自分一人で作ってましたけど、『対人』というのが強くなりましたね。届けたい相手がそこにいるということを意識したし、誰かの目を見て歌うようになりました」
まさに、そういうライブだった。
本編の大詰め、「前前前世」を歌う前に、彼は「ずっと苦しみの中で音楽を作ってて10年前の俺たちを見た人がこの姿を見てびっくりしてるかもしれない」「曲によっては、この曲、何、気持ち悪いとか思うものもあると思うけど、ウミみたいなものでそういうのも定期的に産み落とさないと。ハッピーなことばかりじゃないし、今、一番この世の中に落としたいものを作って行きたい」
と言いつつ、RADWIMPSは「俺らの力じゃなくて、あなたたちが育ててくれた」と締めくくっていた。
メロデイがあるから伝わること。
音があるから感じられること。
言葉だけでは表せないこと、言葉があるから表現しきれないこと。バンドという枠だけでは伝えきれないこと。スタイルから解放された音楽とでも言おうか。
6月、彼らはアジアに向かう。
その先で何が開花するのか。
野田洋次郎は、幼少期を海外で過ごしている。「君の名は。」のサウンドトラックが英語詞版も海外で発売されている。演奏力だけでなく、言葉の意味も含め、日本のロック、日本のバンドとして胸を張って世界に出て行って欲しいと思わせるライブだった。
(タケ)