現代では起こりにくい現象か
イギリスで、「きらきら星」の歌詞がこのメロディーに乗ったのは1806年のことなので、1785年にウィーンの出版社から印刷譜として発売されているモーツアルトのピアノ変奏曲を「きらきら星変奏曲」と呼ぶのはおかしいのですが、フランス語の少しわかりにくいへんてこりんな子供の歌、よりも、英語の歌詞の夢がある「きらきら星」のほうが、広く・・・少なくとも日本では受け入れられ、モーツアルトのこの曲は「きらきら星変奏曲」と呼ばれることが多くなっています。
もっとも、民謡も有名でしたが、モーツァルトがピアノ変奏曲の主題にこの旋律を選んだということも、この曲の普及に多大なる貢献をしたはずです。ピアノを勉強する数多くの生徒がこの曲を「かのモーツァルト作品」として世界中で弾くわけですから・・・。
ちなみに、現代日本では「きらきら星」と呼ばれるこの民謡の旋律は、ほかに、モーツァルトと同時代の作曲家ハイドンが交響曲に取り入れていますし、ロマン派時代のピアニスト・作曲家のリストも作品を作り、さらには、発祥国フランスの19世紀の作曲家、サン=サーンスも、バカンスの余技として書いた傑作「動物の謝肉祭」の中にこのメロディーを採用しています。
しかしおそらくもっとも有名なのがモーツァルトの作品でしょう。フランス発祥の、素朴なメロディーは、イギリスの歌詞と合体し、さらには、オーストリアのモーツァルトの変奏曲・・アレンジ作品で、広く世界に知られた、と結論づけてもよさそうです。
著作権管理の厳しい現代ではなかなか起こりえないことかもしれませんが、「良い音楽は国境を超える」典型例かもしれません。
本田聖嗣