歌わなければいけない理由がある
アルバム「PEACE OUT」には、彼が北海道時代に小さなライブハウスを回っていた頃の歌「ママさんそう言った~Hokkaido days~」がある。札幌や函館などの都市だけでなく、名前と場所が一致しないような小さな街、ライブハウスとは言えないスナックも含んだ24か所。「歌わせて欲しい」と無理矢理の頼みをきいてくれたママさんへの感謝の歌。「さぁノックアウトしといで」と言ってくれた彼女に「必ずチャンピオンになって帰ります」と誓う歌は、学生時代にボクシングの全日本選手権にも出ていたという生きざまそのものだろう。
「チャンピオンが何かは、今も分かってないですね。便宜上使ってます。少なくとも自分から言うもんじゃないし、言わないでしょう。応援してくれた人が決めることじゃないでしょうか。ただ、歌わなければいけない理由があるから歌う。その切実さはありますね。甘えたことを言うわけじゃないですけど、歌以外、上手に出来ない。人の役に立つことが出来ないんです」
アルバム「PEACE OUT」の主人公は、トーナメントにもあみだくじにもエントリー出来ず、良い兆すらなかった(「俺たちはまた旅に出た」)。自分も含めた「ボンクラ」たちへの叱咤激励の様なエール。
5月7日から始まった「弾き語りツアー」は、年内70本以上が決まっている。この先も追加されるはずだ。もう一人で運転するひとり旅ではなくなっている。でも、ギターを持って素手で客席と向き合う関係は変わらない。
生身の声と身体。生きざまと人柄が滲み出た声と言葉の説得力――。
声が聞こえない時代だ。
誰も肉声で語ろうとしない。
そして、力なき人たちの声が届かない。
時代が彼を求めている。
(タケ)