「VR(仮想現実)元年」と呼ばれた2016年。それまでVRは、ビジネス用途や一部の愛好家を中心とした「高価なオモチャ」だったが、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの「プレイステーションVR」の発売や、VRをテーマにした娯楽施設のオープンなどの後押しで一般消費者にも浸透してきた。17年は、普及・定着に向けての「勝負」の年になるだろう。
VRコンテンツは、スポーツや教育、医療、ゲームなど多岐にわたるが、いま、「アダルト」分野がじわじわと盛り上がりをみせている。17年5月3日に開催されたアダルトVRの展示会「AVRS 2017 in Tokyo」に記者が参加し、その熱を体感してきた。
SNSでも続々対応可能に
VRとは、専用のゴーグルを装着することで、最大360度の映像に包まれる「疑似空間」を作り出す技術だ。
これまでは、専用機器が高価だったことや、撮影機材の未整備、映像配信先の少なさなど課題が多く、なかなか普及しなかった。
しかし、16年ごろから風向きが変わる。段ボール製の安価なゴーグルの登場により、スマートフォンと組みあわせるだけで手軽に楽しめるようになった。また、ニコンやリコーなど老舗のカメラメーカーが全天球カメラを発売し、プロの現場ではもちろん一般ユーザーも360度撮影が身近となる。撮影した画像・動画はフェイスブックやツイッター、ユーチューブに投稿できるようになり、配信先も充実してきた。
そんな急成長のVR市場で注目を集めている分野は、「アダルト」だ。大手動画配信サイト「DMM.com」は16年11月、VRに対応したアダルト動画の配信を開始。17年5月10日時点で1200ちかい作品をそろえる。
さらにAV会社大手「ソフトオンデマンド」は16年12月、アダルトVRを個室鑑賞できる店舗「SOD VR」を秋葉原にオープンした。企業が積極的にVRを活用する機運が高まっており、それと並行して男性層を中心に急速に関心が高まっている。
米投資銀行「Piper Jaffray(パイパー・ジャフレイ)」の調査では、全世界でのVRアダルトコンテンツ(パッケージおよび配信作品)の市場規模は、2025年には10億ドルに達すると予測。これは、アダルトコンテンツ市場全体の5割にのぼるとした。
体験者「もう彼女はいらない」
前述の展示会で、記者は「実写」「CG(コンピューター・グラフィック)」両方のアダルトVRを体験した。
まず、アダルトビデオメーカー「TMA」のブースで、人気セクシー女優が出演するVR作品を視聴した。記者はこれがはじめてのVR体験だったが、まずはその臨場感に驚いた。まるで相手がその場にいるかのような感覚や、シチュエーションへの没入感は「虚構」とは思えなかった。自分が男優になりきり、その視点でストーリーが展開されていく作りだったが、女優と目があった際は思わず「ドキッ」としてしまった。
次に体験したのは、同人サークル「VRJCC」が手がけるアダルトゲーム「なないちゃんとあそぼ!」。3Dイラストのキャラクターと触れ合うゲームだが、専用ゴーグルとヘッドホンを装着しつつ、より現実感を追及するためにスマートフォンが装着された「エアドール」を使用する。これはキャラクターと連動しており、エアドールを動かすことでキャラクターも同じ動作をし、実際に相手に触れているかのような錯覚を覚えた。
来場者にも話を聞いた。VRゲームは使用経験があるものの、成人向けコンテンツは「はじめて」という20代男性は、
「これがあればもう彼女はいらないと思えるような完成度でした。買いたいけどどっぷりハマってしまいそうで怖い」
と、率直な感想を漏らす。
また、すでにヘビーユーザーだという40代男性は、
「アダルトVRは、黎明期から現在までいろいろなソフトを体験しましたが、日に日にクオリティーがあがっています。今後のラインナップが楽しみです」
と、目を輝かせた。
エキサイトすると画面が揺れて......
同イベントではセミナーも開催され、アダルトグッズの開発アドバイザー・早稲田治慶氏が登壇した。
早稲田氏は、アダルトVRの現状をこう語る。
「映像ソフトと比べて、現在は、VHS時代の『14型ブラウン管テレビ+ビデオデッキのリモコン』のはるか手前の段階です」
主流であるスマホ再生の場合、視聴中の画面操作ができないため、早送りや巻き戻し操作ができない。そのため利便性を損なっているという。また、行為の際にエキサイトしてしまうと画面が揺れてしまい、没入感を阻害してしまうともいう。
課題解決のためには、映像の世界を邪魔せずに使えるリモコンや、画面を空中の1点で固定できる「ポジショントラッキング」という技術を搭載したスマートフォンの登場が必要だと提言した。
思えば、1975年から約10年間繰り広げられた家庭用ビデオデッキの規格争い「VHS対ベータ」も、VHS陣営がアダルトソフトを積極的に取り込んだことが勝因といわれている。VRの普及のカギを握るのは、やはり「エロパワー」かもしれない――。