統合型農業の提案で食糧安定供給に貢献
――信頼できるメンバーと共に、モンサントや日本モンサントはこれからの農業に対し、どのような課題を見出し、取り組んでいくのでしょうか。
日本モンサントは日本での製品やサービスの販売はしていないため、日本に限定した農業との関係はあまりないかもしれませんが、業務を通して日本での食糧安定供給に貢献していきたいと考えています。現在の日本における食糧事情は輸入に支えられ豊かであり、食糧の供給が脅かされるという状況は実感しにくいかもしれません。また、2053年には総人口が1億人を下回るとの試算が厚生労働省から発表され、需要も低下するように思えるでしょう。
しかし、世界全体を見ると人口は2050年には90億人に達すると予想されており、現在から30%も増加する見込みです。米国など一部の生産国の穀物に多くの輸入国が頼っている現状では、輸出国から今後も日本に対し無尽蔵に穀物が輸出されるのかという点には、疑問の余地があります。
輸出に回される穀物量は実は少なく、例えば米国ではトウモロコシだけで年間約3億5000万トンが生産されていますが、輸出に回されているのはそのうち15%にあたる約5000万トンにとどまります。輸出国にとっても自国の食糧安定供給が一番のミッションであり、それを満たした上での余剰分が輸出に回されているにすぎません。
また輸入の視点からも、アジアを中心とした経済発展による肉、卵、乳などの畜産物の需要の高まりに伴い、それらの家畜のエサとなる穀物の需要が急速に増加しています。例えば中国による大豆の輸入量は、かつて世界一の輸入国だった日本の300万トンを30倍近く上回る9000万トンに迫る勢いです。この状況が続くようであれば、日本で今後も同じ値段で同じクオリティの穀物や、穀物をエサにする家畜からの畜産物が安定的に入手できるのか、楽観できるものではありません。
このように視点を日本から世界全体に広げて見ると、主要栽培国の限られた農地で、環境負荷を抑えながらも、収量を高めていく持続可能な農業を実現させることが大切であることが理解いただけると思います。そして、日本などの輸入国に対しては、ただ食糧を届けるだけではなく、値段も安定した状態で供給しなければ意味がなく、この持続可能な農業の実現を通して「日本への食糧安定供給に貢献する」ことは、日本モンサントとして大きな責任だと考えています。
――具体的にはどのような貢献方法、解決策があるのでしょうか。
まず、大きな実績として遺伝子組換え作物があるでしょう。遺伝子組換え作物は商品化されて21年が経過しました。この栽培実績はもちろんですが、第三者機関による客観的な評価によって、穀物生産国の環境負荷を低減しながら収量を上げることに貢献していることが確認されており、食糧の安定供給にも貢献していると考えています。
さらに、モンサントが現在提案しているのは、前述の「植物バイオテクノロジー(遺伝子組換え技術)」に加え、「育種(品種改良)」「農業用生物製剤」「作物保護(化学農薬など)」「データサイエンス(精密農業)」、5つの技術を複合的に組み合わせた、いわば統合型農業です。
中でも個人的には、「育種」が遺伝子組換え技術以上に重要であると考えています。トウモロコシには約4万5000個の遺伝子があると言われていますが、今のところ遺伝子組換え技術で新たに付与しているのはわずか5~10個程度の遺伝子であり、これだけでトウモロコシの性質は大きく変わりません。組換え技術によって害虫や雑草の防除に役立つ形質を付与する一方、育種によって残りの膨大な遺伝子を最適化しより優れた品種を開発することで、初めて技術革新が実現します。
スマートフォンとアプリケーションに例えるなら、遺伝子組換え技術で付与される遺伝子はアプリで、育種技術により育成された品種はスマホです。アプリがいくら素晴らしくても、スマホの処理速度やバッテリーが向上しなければアプリを活用できません。スマホあってのアプリであり、育種技術は疎かにできません。
また、「データサイエンス」も前述の4つの技術を統合し、生産者に効率よく利用してもらうために不可欠なものです。肥料ひとつをとっても、過剰に提供したところで生産者の利益にはつながりません。精密に耕作地を分析し、必要なところに必要な技術を利用してもらう。限られたコストで最大限の収量をあげていただくためにも、統合型農業の要となる技術となります。