■国家の矛盾 (高村正彦・三浦瑠麗著、新潮新書)
集団自衛権の行使をはじめとする「安保法制」の議論をご記憶の方も多いと思う。国会の採決の際に野党議員がテレビに向かってプラカードを掲げたりもしたし、国会前をはじめあちこちで行われた「戦争反対」を訴えるデモや集会の報道も多かったと記憶する。その意味では、安保闘争とかそういうものとは異なるものの、我が国の戦後の安全保障の転換点に当たっての「騒動」ではあったと思う。
しかしながら、最近でこそ北朝鮮の度重なる挑発的な行動やそれに対する日米をはじめとする各国政府の対応が報道され、(報道番組などを見ても)我が国の安全保障や外交についての意識が高まっているのを感じるが、安保法制の議論が行われていた当時、こうしたことがきちんと議論されたり、あるいは理解されていたかと言えば、必ずしもそうではないのではないか、もっと短絡的な議論に終始していたのではないか、というのが私個人の印象である。
米国と北朝鮮の緊張が高まっている今だからこそ
実際の話として、私ら役所に勤務している身としてはこうした議論に馴染みがあるものの、「集団自衛権の行使に関するこれまでの憲法の解釈を変える」と言われてもピンと来ない方のほうが多いかもしれないし、それが不思議なことではないとも思っている。その意味で、本書は、これまで我が国の安保法制の議論をリードしてきた自民党の高村氏と新進気鋭の国際政治学者の三浦氏の対談を通じ、こうした議論を分かりやすく解説する形になっている。
現在の憲法第9条の規定がある一方で日米安保条約や自衛隊があり、これに冷戦の終結以後の国際情勢の変化や国際法との関係などが加わってくるので、特に我が国における安全保障の議論はアクロバティックな論理を積み上げであり、論理のあちこちに無理や歪みが生じてしまう。そこの辻褄を合わせるのも政府与党の役割であり、今回の安保法制にしても、これまでの議論に配慮した複雑な整理が行われている(この部分は、反対する野党からすれば「ウソつき」、「ごまかし」に映る)。それでも、平成22年9月に発生した尖閣諸島での中国漁船による衝突事件や、直近の北朝鮮の動きといった比較的身近に「安全保障」を感じる事例と照らし合わせてみれば、理解しやすい内容になっているのではないかと思う。
本書の後段は、安全保障や外交に加え、政治や日本の統治機構の対談に移る。その中でも、規制改革や構造改革に関する部分はまさに的を得た議論になっている。
具体的には、アベノミクスの「三本の矢」の3番目の矢、いわゆる「岩盤規制」についての議論である。高村氏は、規制改革は「一本の矢より千本の針」と言っているが、これもなかなか世の中一般では理解されないところで、以前の民主党政権ではないが「構造改革」と大きく打って出る話のほうが受け入れられやすいのが実態ではないだろうか。
著者の一人である三浦氏は、学者としての筋道からテレビでもいわゆる若手の政治家をやりこめる論客だが、高村氏はその筋道を理解した上で、政治という営みが本質的に抱える矛盾と真摯に向き合い続けてきた政治家としての「生き様」を見せてくれる。
いみじくも米国と北朝鮮の緊張が高まっている今だからこそ、「安保法制」の復習をしてみる、とか、日本の外交についておさらいをしてみてはどうだろう。いずれにしても、政治談義として非常に読み応えのある一冊だった。
銀ベイビー(経済官庁・Ⅰ種)