医療政策論議のステージアップに向けて新たな一石を投ずる書

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高度医療を平等に受けることは可能か?

   その上で、印南氏らによる提案にひとつ注文を付けるとすれば、医療高度化の取り扱いである。著者の提案が医療費適正化を図る上で必要十分なものであるのか、評者は多少の疑問なしとしない。癌のような高額医療は、本書の分類では「救命医療」に分類され、手厚い支援のもとに置かれることになる。

   ただ、救命にかかるものであっても、非常に大きな資源を要する医療技術が今後ますます開発されてくることを見込むなら、救命医療といえども、一定の資源制約のもとに服さざるえない事態も考える必要があるのではないか。本書の医療費増加要因の分析では、医療技術の高度化を十分に分析できないことは既に述べた。医療技術の高度化への目配りを加えることで、本書の分析と提案はより見通しのよいものになるのではないか、というのが評者の感触である。

   医療提供体制が需要を誘発するといった類の産業構造上の問題が諸賢の知恵と努力で一定の解決に導き得る問題だとするなら(こういう乱暴な物言いは評論家みたいだと霞ヶ関では誹りを受ける)、それでもなお我が国の医療費を公共政策の一丁目一番地に押し上げる要因があるとすれば、それは巨視的にみて高齢化と医療技術の進歩とみるべきであろう。高齢化は稼働人口に比して、要治療人口が劇的に増加する問題。医療技術の高度化は、生産力が低下しつつある経済のなかで、急速に奢侈財と化しつつある医療を、皆保険のもとで全国民に均霑(きんてん)しつづけることが持続可能であるかという問題である。現に途上国がそうであるように高度な医療の均霑を断念する途を取るのか、そうではないのなら、どこを見直すのか(この問題についての本書なりの考えは、コラム(18、19)形式で触れられている)。

   いずれにせよ、本書を契機に広範で深みのある議論が交わされることを期待したい。

経済官庁(課長級) Repugnant Conclusion

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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