生涯で発表した歌曲はわずか17曲
その中にあってデュパルクは少し異色の作曲家でした。彼は自己批判が大変強く、たくさんの作品を作曲したらしいのですが、出来栄えに満足せず、そのほとんどを破棄して、発表しなかったのです。また、普仏戦争に従軍経験もある彼は、まだ若い37歳の時に突然神経の病気に襲われ、以後作曲ができなくなってしまいました。結果的には85歳の生涯を全うしたのですが、彼は全生涯を通して、わずか17曲の歌曲と、数曲のその他の曲を自作として発表したのみでした。
しかし、その歌曲、ジャン・ラオールやテオフィール・ゴーティエ、そしてシャルル・ボードレールの詩に音楽をつけた作品たちは、厳しい彼自身が合格と判断しただけに佳曲ぞろいで、デュパルクは残したわずかな作品数にもかかわらず、近代フランス歌曲の重要な作曲家として、評価されています。
ボードレールの詩を基にした「旅への誘い」は、はじめ、不安な様子の伴奏で始まり、どこかにある理想郷に旅立とう...という歌詞の内容とともに、音楽も明るくなり、最後は、まさに「旅情に誘われる」という言葉がぴったりの、気分が高まるハーモニーで完結します。
旅は、計画を立てているときが一番楽しいとよく言われますが、この曲は、そんな旅への思いを凝縮したような、魅力的な響きを持っています。どこかへ行きたい、そんな気持ちになったら、ぜひ聴いてみてください。さらに旅に出たくなること請け合いです。
本田聖嗣