■『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(土屋大洋著、角川新書)
本書の著者は国際関係論、情報社会論、公共政策論が専門で、サイバーセキュリティの政策課題に関する研究に従事する傍ら、2009年から2013年までの間、政府の情報セキュリティ政策会議の構成員を務め、我が国のサイバーセキュリティ政策の確立にも関与してきた方である。
タイトルのとおり、本書の前半は「暴露」の話で始まる。まずは2013年6月の「スノーデン事件」である。スノーデンは、NSA(米国国家安全保障局)の諜報活動に関する極秘文書を大量に報道機関にリークしたわけだが、その中には米国の諜報活動の対象に日本やドイツの首脳が含まれていることを示す文書もあり、記憶されている方もおられると思う。
日本政府にも約5秒に1回の攻撃が
実際のところ、このスノーデンの1件で明らかになったことは、安全保障のための必要悪とはいえ、西側諸国がどれだけ他人の通信を傍受していたかということと、こうした情報戦で米英がいかに優位に立っていたかということである。本書では、諜報活動を通じて相手陣営の動きを察知して状況を優位に進めるという米英の「お家芸」の内実が紹介されているが、日本では到底考えられないことであり、「冷戦」といえども前線の緊張感の高さを示すとともに、日本がいかに日米同盟の下で平和を享受してきたかを示すものでもあると思う。
本書の後半はサイバー空間におけるセキュリティや安全保障の議論が紹介されている。いわゆるサイバー攻撃については、例えば日本政府には約5秒に1回という頻度で何らかの不審な通信が送りつけられているほか、日本年金機構の個人情報の流出事案をはじめ、官民問わずこうしたサイバー攻撃の被害は枚挙にいとまがない。
サイバー攻撃の多くは、ネットワークの脆弱なところを突き、例えば一般市民のパソコンを「踏み台」にして標的を攻撃するので、発信者の特定が難しいとされているが、本書では、攻撃の手口の進歩とともに、防御側の進歩についても紹介している。特に攻撃主の特定については、技術的な進歩とともに、国際的な協力体制の構築を通じ、相当の進展が見られているようである。