福岡市の都築学園は2017年3月21日に同学園の広報誌「Tsuzuki TALK PRESS」を発行した。記念すべき第1号を飾ったのは、作家で映画監督の辻仁成さん。彼が通った小学校は同学園創業の地と目と鼻の先とか。
都築学園はグループとして全国で37のキャンパスを展開。「個性を伸ばし、自信をつけさせ世界へ送り出したい」を教育基本理念に掲げ、今回のインタビューもその一環。
辻さんは、フランスと日本を往復する生活を送っているが、思春期を迎えた男の子がいる。個性を重視するフランス式教育を受けて育つわが子に、父親としてどのように接しているのか――。
親子の会話こそ子どもの成長にとって栄養剤
辻さんは男手一人で子育てに取り組んでいる。人一倍の愛情を注ぐ一方で、決して甘やかしたりせず、一人の人間として全力で向き合う。
「自分の持てる経験を総動員して、真剣に息子と向き合います。ただ論破するのではなく、彼の心を補いながら、可能性を探してやるのです。そして、生きるのりしろを与えてあげるのです。親子の会話こそ、子どもの成長をサポートする一番の栄養剤です」
京都造形大学の文芸表現科の教授として約10年間行った経験を持つ辻さん。また人間としての心を養う「人間塾」という私塾も主催していた。さまざまな年代の老若男女が、広い茶室のような部屋でひざを突き合わせ、ひとつのテーマのもと質問したり討論したりする問答スタイルで、何時間も議論を交わしたという。わが子に対する接し方はそれに近い。
「人は学びにより成長しますが、自分から物事を知ろうとする気持ちや、自ら興味を持って学ぼうとしない限り、成長することはできません」
「私自身は、先生の知識を一方的に教えられる日本の学校教育で育ちましたが、その反動でもっと面白いことがあるはずだと思い、外の世界を見ることにつながりました」
先生の知識を一方的に教えられる日本の学校教育で育った辻さん。お子さんの通うフランスの学校ではPTAなどにも積極的に参加しているという。
「フランスの学校教育は生徒のいいところを伸ばす、個性を引き出すことを基本としています。優秀な子は飛び級をして、自分が学びたい環境にどんどん進むし、授業についてこれない子は、落第してもう一度やり直します」
ただし辻さんは、フランスの教育理念に諸手を上げて賞賛しているわけではない。
「中庸を尊ぶ日本では、誰もが中産階級でみな同じという良さがあります。フランスには日本では考えられない大きな格差があります」
それでも辻さんは、皆同じがいいという意識でいる限りは、新しいモノは生まれてこないと断言する。
「人と違うことはオリジナリティがあるということであり、新しいモノを生み出すチャンスを掴んでいるということです。打たれることを恐れず、ずば抜けた杭となることを目指してください」
最後に辻さんは、読者に対して次のようなメッセージを送った。
「私は『野心』という言葉が好きです。人を蹴落として自分が這い上がるというイメージで使われたりもしますが、野に出る心と書くことから、この言葉が生まれた頃は良い意味で使われていのじゃないかと想像しています。ですので、私はチャレンジするチカラという意味で使っています」
「私は『野心を抱いて荒野を目指せ』という言葉を贈ります。中の中で安穏とするのではなく、出る杭となり野心を抱き、新しい世界、まだ見ぬ荒野を目指して欲しいですね」
「Tsuzuki TALK PRESS」のPDF版は、都築学園のWEBサイトでも無料公開される予定だ。