人材の育成こそが最重要課題――日本企業なら「我慢」も必要
「私が社長に就任する第一の目的は『経営者人材の育成』です」
「私は16年間、追い詰められた日本企業の『事業再生』に取り組む仕事をしてきて、いまの日本経済の不調は、日本の経営者人材が枯渇しているために起きている、と感じています」
これらは、著者が、ミスミの社長に就任した際の記者会見で発した言葉だという。
著者は、ミスミでの経営者としての12年間、常に意識し続けた課題が、この「経営者人材の育成」であったと述懐する。退任時にはミスミの経営を40代の経営陣に引き渡すことを目指して、若手の育成に全力を注いだという。
しかし、その道程は困難を極め、「いまは能力不足でも、育てるために面倒を見る」というやり方をやめ、人材の良し悪しの判断を早めて、こいつはダメだと思えばサッと入れ替えるようなやり方をとったほうが、この苦しさから抜け出る早道かもしれないと何度か思ったと語る。
それでも著者は、当時50代の「できあがった経験者たち」を集めるという誘惑を我慢し、「経営者予備軍が通う幼年学校の校長先生」として、初歩から繰り返し、何度も何度も指導を重ねた。結果として、この我慢は奏功した。
いま、振り返ると、経営者人材を育成するのには10年単位の期間が必要だったという。
欧米企業では、2~3年で成果を出せるかどうかで経営者を取り換えていくが、生え抜き登用が一般的な日本企業においては、中長期の視点から人材育成を考えなくてはならない。
「経営者の技量は、過去に経験した『死の谷』の回数で決まる」
リーダーは、経営者人材を育てるために、あえて困難や修羅場の経験を積ませるとともに、そこでの失敗やもたつきを我慢する腹の据わった覚悟が必要なのだ。
本書を通読すると、まず、プロ経営者としての著者の偉大さが目に付くが、ここで取り上げられている一つ一つの具体例は、日本の「ふつう」の企業において、しばしば目にする光景ばかりだ。
自分には(自分の会社では)無理だと思わず、参考となるアイディア、アプローチを取り入れ、ねばり強くこだわり続けられるかどうかが読者にとっての本書の価値となろう。
ペンネームJOJO(厚生労働省)