出版不況が叫ばれて久しいが、地道に売れ行きを伸ばしている新書は少なくない。紀伊國屋書店のベストセラーウイークリーランキング(和書一般、2017年2月19~25日)を見ると、トップ30中、新書は6冊ランクインと、なかなか善戦しているといえるのではないだろうか。
そんな中で、じわじわと売れ続けている「ジャガイモの世界史 歴史を動かした『貧者のパン』」(伊藤章治著、中公新書)という新書を知っているだろうか。08年1月に初版が刊行され、17年2月になって9刷目の重版が決まった。
「ジャガイモの世界史」は、南米で生まれたジャガイモが、その育ちやすさと栄養価の高さで、世界各国の凶作や飢饉、戦争などで飢えた人々を救ってきた歴史を記している。
著者の伊藤氏は「足尾鉱毒事件」を調べていた際、鉱毒の被害を受けた人々が北海道に移り住み、そこでジャガイモを栽培して命をつないだという話を知った。直後に入院中の叔母を見舞うと、彼女が満州に住んでいた頃にジャガイモを収穫した時の写真を病室で見つけた...といった、ジャガイモにまつわる出来事が重なり、「ジャガイモを探す旅」に出ることにしたのだという(あとがきより)。
中公新書の公式ツイッターは17年2月16日、この書の重版9刷が決まったことを報告した。
伊藤章治著『ジャガイモの世界史』の重版が決まりました。9刷になります。南米に生まれ、インカ帝国滅亡ののちはスペインに渡ったジャガイモ。それ以降、フランスやドイツの啓蒙君主たちも普及につとめ、わずか五百年の間に全世界に広がっていく歴史がこの本には綴られています。 pic.twitter.com/ppn5yzTU8Y
— 中公新書 (@chukoshinsho) 2017年2月16日
「食べ物と世界史」本はほかにも
ツイッターでは、読んだ人から
「中世ヨーロッパの人々や、北海道開拓民とジャガイモが繰り広げるドラマが面白く、読み出したら止まりません。新たな側面から世界史を捉え直すことができるので、歴史が好きな人には是非読んで欲しい一冊です」 「南米生まれのジャガイモは、如何に広がり、人の口に入ってきたのか。飢饉を救ったり、逆に飢饉を起こしたりしつつ、今では欠かせない食材となったジャガイモについて突っ込んだ、非常におもしろい本です。日本の状況もあるよ!」
といった感想が寄せられている。おおむね読者の満足度は高い様子だ。
今回の重版決定を受け、さらに「じゃがいもラブだから読まねば」「こういうの欲しかったんだよ」「これはいつか買うよ」との声も上がっていて、さらに部数を伸ばしそうだ。
ちなみに中公新書では「ジャガイモの世界史」のほかに、「茶の世界史 緑茶の文化と紅茶の社会」(角山栄著)、「コーヒーが廻り 世界史が廻る 近代市民社会の黒い血液」(臼井隆一郎著)、「チョコレートの世界史 近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石」(武田尚子著)など、食べ物と歴史の関連を紐解く本がいくつも出版されている。
また、伊藤氏はPHP新書から「サツマイモと日本人 忘れられた食の足跡」という、日本の民衆の生活とサツマイモとのかかわりをさぐった本も送り出している。現代広く親しまれている様々な食べ物が歴史の転機でどんな役割を果たしてきたのか、興味のある人は色々読んでみては。