大きなビジョンを共有し研究開発の統合を進める
――成果を上げつつある研究開発は、今後どのような方向へと進むのですか。やはり、遺伝子組換え作物に注力するのでしょうか。
モンサントは、以前から掲げている大きな目標として、「2030年に2010年の大豆・トウモロコシ・綿・ナタネなどの作物の収量を倍にする」というものがあります。この目標は非常に大きく、どれほど優れた研究開発力があっても、育種や遺伝子組換えなど単独の技術だけで達成することは容易ではありません。5つの研究開発分野を統合し、総合的なソリューションを提示することで初めて実現できるものです。各分野で成果が出始めた今、次はこれらの分野の統合をどのように進めていくのかが重要なテーマになるでしょう。
「事業の柱」という考え方は、ややもすれば「それぞれが個別に頑張って成果を上げればよい」というような方向に陥りがちですが、モンサントはもともと社内の各部門が横断的で、部門の壁を越えてコミュニケーションを取る姿勢があります。この動きをさらに活性化させ、目指すべき共通のビジョンは持ちながらも、それぞれの自主性や個性を尊重し、切磋琢磨する組織づくりを目指していければと考えています。
――2030年には収量を倍増させるというのは、企業の掲げるビジョンとしては、とても大きな話であるように感じます。こうした大きなビジョンを掲げることには何か理由があるのですか。
モンサントのカルチャーが大きく影響しているのではないでしょうか。企業である以上、単年度の目標というものはもちろんありますが、単年度の目標を追いかけるのではなく、大きなビジョンに向かって単年度の目標が積み重ねられていくべきである、という考え方があり、ビジョンに立ち帰ることで常に目的意識を持つことを大切にしています。そしてそのビジョンは世界のニーズ、生産者の方々のニーズを汲み取り、それらを克服するということに主眼を置いています。
かつてのモンサントは農薬メーカーでしたが、懸念されている世界の食糧危機を解決したいという大きなビジョンのもと、バイオテクノロジーに注力し種子分野へ進むことを決めました。こうした経緯から、常に20年、30年先のことを念頭に置き、世界がどう変化し、どんな克服すべき問題があるのか、それに対して私たちが貢献するにはどのようなビジョン、目標を持ち、どのような技術が必要なのかを考える、モンサント特有のカルチャーが醸成されたのでしょう。
――モンサントでは社員の職場への満足度も高いと聞いていますが、そうしたビジョンが関係しているのでしょうか。
ビジョンが明確になっていることで、社員は「自分の仕事は、未来につながるこのゴールを達成するための重要な部分を担っている」と感じています。私たちは「モンサントに勤めているなんて」と言われることも少なくありませんが、「私たちは収量を倍にすることで世界の食糧危機を克服するんだ」という信念を共有していることで、多少の逆風や逆境に陥ってもひるむことなく業務に取り組んでいけるのです。
また、モンサントは立場に関係なく誰とでも対話ができる非常にフラットな組織です。私たちが会長兼CEOのヒュー・グラントにメールを出せば、本人から直接返信があります。誰と話しても構わないという風通しのよさ、自由度の高さがあり、そんな環境で一人ひとりが同じビジョンを目指す。言われてやるのではなく、自分がやりたいから取り組むという気持ちになるのではないでしょうか。
――今うかがったような、モンサント特有のカルチャーが、バイエルによる買収によって失われてしまうことはないでしょうか。
現時点ではどのような形での経営統合となるのか何も決まっていない状態ですから、はっきりとしたことは言えません。しかし、モンサントは常にビジョンを大切にしながら研究開発を進めている企業であるということは、バイエルも理解しており、このモンサントのカルチャーは継承されていくと考えています。今回の経営統合はただ2社が1社になるということではなく、種子分野やデータサイエンスを強みとするモンサントと農薬分野を強みとするバイエル、異なる強みを持つ両者が互いの弱点を補い、より強固に新たなシナジーを生み出せるのではないかと期待しています。
――ある程度の規模とシェアを持つ企業同士の経営統合に懸念を示す声もあります。
まずシェアに関しては、世界各国に独占禁止法がありますので、当然それを順守して行くことになり、そのうえで一定のルールの中どのように拡大していくかを考えていくことになります。一方で、規模の拡大はシェアがどの程度になるのか、そこに応じてということになるかと思われます。巨大な企業が誕生するということに懸念を持つ方がいらっしゃることは理解していますが、規模が大きくなるということは決して悪ではなく、例えば資金力が強化されることで研究開発への投資もさらに強化されます。これまで10年かかっていた研究が、もっと短期間で実現するかもしれません。短期間で実現すれば、私たちにとってはもちろん、生産者の方々にとっても大きなメリットになるものであり、期待していただけるものと信じています。