次の取り組み「POファイナンス」も動き出している
――サプライチェーンファイナンスの反響はどうですか。
昨年7月に始めたばかりですが、前向きにご検討いただいている大企業が増えています。上場企業で申込みいただいているのは4社、検討していただいているのは10数社なので、段々と広がっていくと思います。
――どのような業種なのですか。
建設や機械、システム開発といったところです。流通や食品など、すぐに現金払いする業種では、こうした仕組みは要りません。製造過程が長く、製品化するまでの期間が長い業態に向いています。
――サプライチェーンファイナンス以外の事業プランは、何がありますか。
中小企業が成長資金を得るため、私たちは次のステップで「POファイナンス」(Purchase Order Finance)というスキームを用意しています。これは、発注があったらお金を借りられるようにしようという仕組みです。通常は納品してから、手形が出れば手形、あるいは電子記録債権を割り引くのがこれまでの売掛金のファイナンスでした。我々は売掛金が発生する前、受注段階で電子記録債権を発生させます。受注段階で電子記録債権があれば、その時点で銀行の担保に入れられますから、受注段階でお金を借りることができます。
このスキームには中小企業庁も賛同していただいています。信用保証協会が保証してくれるように制度改正してくださいました。そのため、このスキームが動き出せば、優良な上場企業から1億円の受注があったら、受注額の半分まで借り入れすることが可能になります。受注額の半分を借りることが可能になれば、資金繰りはかなり楽になるだろうと思います。手前でお金が入りますから、資金繰りを気にせずに、大型受注も可能になり、会社を成長させることができます。
成長資金というと、工場を作るとか、研究開発を思い浮かべますが、中小企業の場合は、大きな仕事を取ることが一番大事で、これが会社の規模を拡大していくエンジンになります。事業計画を作って、計画通り経営を安定させ、規模の拡大を実現していくというのは、ある程度以上の大きい企業の話であって、町の中小企業は、まずどうにかして大きな仕事を取ろうと奮闘しているのです。
――資金繰りが大事になるわけですね。
そうです。例えば、年間1億円の売り上げの会社が3億円になる時、先に人材を確保し、システム設備への投資等、資金が必要になり、運転資金が足りなくなります。その時に資金調達できるか、融資してくれるかどうかが重要です。ただ、銀行は、過去の決算を見て融資を判断することが多く、一般的には成長資金を借りるのはなかなか難しいのです。
――先は見ていない、と。今までの実績しか見ていないのですね。
そうです。銀行から借りる交渉をすれば、まず枕詞は「決算書3期分、持ってきて」です。過去3年間の決算を見て、そこから分析が始まるわけです。しかし、現代社会は極めて変化が激しいので、中小企業にとっても、銀行にとっても、現在の経営状況と返済時点の資金状況を的確に把握することが重要です。過去の直線的な延長上に未来があるわけではありません。企業を現在から未来につなぐのが金融の使命であると思います。すでにまとめられている過去の決算を分析するのではなく、一からデータをまとめて企業の未来を把握する。以前は、そのような手間のかかることは現実的ではなかったかもしれませんが、FinTechはそうした課題を解決するためにこそあると思います。われわれはそうした未来に向けた金融のサポートをしたいと思います。
われわれは未来を把握する金融のプラットフォームとして、EDI(電子データ発注、納品・検収、代金支払い)と電子記録債権を組み合わせた電子記録債権EDIを開発中です。これによってPOファイナンスは、審査・事務コストの低い新しい金融の在り方として日本に拡げられると考えます。