「地政学」――学校で教えるのは難しいが「現実直視」には必要

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   ■『学校では教えてくれない地政学の授業』(茂木誠著、PHP研究所)

   米国のトランプ政権の発足や英国のEU離脱、ISの台頭といった混沌とする世界情勢を紐解くにあたり、最近よく聞かれる言葉の一つが「地政学」ではないだろうか。

   Wikipediaで「地政学」を検索すると以下のように書いてある。「地政学とは地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済的な影響を巨視的な視点で研究するものである。イギリス、ドイツ、アメリカ合衆国等で国家戦略に科学的根拠と正当性を与えることを目的とした。<地政学的>のように言葉として政治談議の中で聞かれることがある。歴史学、政治学、地理学、経済学、軍事学、文化学、文明、宗教学、哲学などの様々な見地から研究を行う為、広範にわたる知識が不可欠となる。」

   これだけ広範な物事の分析が必要となれば、本書のタイトルのとおり、たしかに歴史や地理のように教科書があって、学校で教えてもらえるものではないし、政治や経済は日々刻々と状況が変化するものだから、「教科書」を作るのも難しい話だと思う。こうして学校教育(特に教科書)は理想主義に偏りがちなものとなり、例えば中国にしてもロシアにしても、国の指導者は世界平和のような崇高な目標ではなく、自分の国がいかに生き残るかを考えているという現実主義――リアリズムを教わる機会は得られない。また、日米同盟の下で平和を享受してきた現代の日本人は特に、こうした「生き残り」や自立のための戦略的思想に欠けており、これが世界の常識からもかけ離れていると著者は指摘する。

中国はじめ各国が何を考えているかがわかる

   本書は、文化放送のラジオ番組「オトナカレッジ」の一つ、「茂木誠の世界史学科」として2015年秋から半年間放送されたものを基に出版されたものである。正直、地政学をラジオで講義するというのも驚いた(実際、番組のツイッターで地図を閲覧できるらしい)が、そのぶん、専門用語の予備知識などなくても十分に分かりやすくまとめられている。

   本書は全部で15章、米国(刊行の時期との関係で米国については大統領選挙の前の時点のものである点に留意。)、中国、韓国、ロシア、EU、中東、といった日本からみて主要な国々の地政学について解説されている。もちろん、現在の混沌とした世界情勢をこれだけですべてが説明できるような簡単な話ではないが、「隣(の国)は敵」だが「敵の敵は味方」であるとか、「ランド・パワー」(大陸国家)と「シー・パワー」(海洋国家)といった分かりやすい分類学を通じ、例えば不凍港を求めて南下するロシアとロシアから植民地を守りたい英国、といった欧米列強の「地政学」に振り回されてきた国々の歴史についても分かりやすく説明されている。

   中国については、近年の海洋政策についても解説されており、安保法制に対して様々な議論があることを否定するつもりはないが、中国が今何を考えているのか、何をしているのか、それに対して日本はどういう位置に置かれているのか、といった「現実」を直視することも必要だと思うし、本書は間違いなくその一助になると思う(これがまさに「地政学」である。)。

   本書における地政学の「講義」の詳細については、ぜひ本書を手にとってご覧いただきたいと思う。世界の「今」「どこで」何が起きているのか、その背景にあるものは何か、ここまではテレビや新聞でも報道や解説されていると思うが、大事なのは、その現実に対して国、企業、あるいは自分というそれぞれのレベルでどう対処していくか、生き残っていくかを戦略的に考えていくことだと思う。

   国のレベルで言えば、現在の安倍政権は発足以来外交に力を入れており、総理自ら多くの国々を訪問しているが、本書は、なぜこのタイミングでこの国に行くのか?といったことの理解の一助にもなると思うし、個人のレベルで言えば、出張にせよプライベートにせよ、外国を訪れる際のその国の理解の仕方が変わってくるのではないかと思う。

銀ベイビー 経済官庁 Ⅰ種

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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