ソフトバンクの孫正義・代表取締役社長が2016年12月に設立した一般財団法人「孫正義育英財団」が17年2月10日、対談イベント「未来を創る若者たちへ」を開催した。
「孫正義育英財団」の目的は、「未来を創る人材の支援 『高い志』と『異能』を持った若者に自らの才能を開花できる環境を提供し、人類の未来に貢献する」。財団の孫代表理事と副代表理事の山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長、理事の五神真・東京大学総長、評議員の羽生善治棋士が、25歳以下の若者や教育関係者約1500人で埋め尽くされた会場内で対談した。
何の山に登るのか
「登る山を決めることによって、人生の半分が決まる。人生って長い山登りみたいなもの。一回登り始めたら、なかなか途中で変えにくい。自分の情熱を何に使うかによって、半分人生、決まってしまう」
孫氏はそう語り、山中氏と五神氏、羽生氏に「いつ、どうして登る山を決めたのか」を質問した。
山中氏は「大学院で初めてやった実験が、その後の運命を決めた。簡単な実験だったが、結果は予想と正反対。それを見てがっかりするなら良かったけれど、僕は物凄く興奮した。自分でも予想しない反応だった。その瞬間に『自分は研究者に向いている』と」と明かした。
小学校1年で将棋と出会い、5年で入った日本将棋連盟の養成機関で腕を磨き、中学生プロとなったのが、羽生氏だ。夜遅くの対局を終え、朝方に帰路に就くと、通勤、通学中の人たちは反対方向へ歩いた。羽生氏は「『完全に道を踏み外した』感覚があった」と述べ、会場内は笑いの渦に。「他の人と違う山に登り始めたことを痛感した瞬間だった」という。
幼少期は粘土細工などに熱中し、中高時代に技術者の父の影響で物理学の道に進んだ五神氏は、大学時代に「理学として真理の探究をすることと、人々の役に立つことと、どっちが大事か」で悩んだという。東大の教授陣に相談すると、返ってきた答えは「心配しなくていい。本当に新しいことだったら、必ず役に立つ」。五神氏は「私はまだ、山が本当に見えているかどうか分からない」とし、若者たちを学問の世界に誘った。