デパートやショッピングモールのキッチン用品売り場などでは、アイデアグッズのフィーチャーや便利商品推しをするショップが多いなか、創業80年の金物問屋の強みを生かした「キッチン道具屋」をアピールする「金山新吉(かなやましんきち)」は「消費者の食の満足度をレベルアップすること」にこだわり、「お金で買えない和の食文化を見直して欲しい」という経営者の思いのたけの発露という。
あえて「非効率」で「時代遅れ」な店舗展開
「金山新吉」は2016年11月、東京・西新宿の京王百貨店内に新宿店を開店し、店舗は合計7店になった。東京には同店のほか2店、さらに神奈川に2店、福岡に2店を構える。
店舗はいずれも、東京都台東区の「合羽橋道具街」の一角にあるようなイメージ。道具を見つける楽しさと面白さを追求した店づくりをしている。同地区には、厨房用品などの専門店170店以上が集まり、調理あるいは飲食店で使うものならなんでもそろうといわれる。
その母体は、1933年に金物屋として創業した家庭台所用品の卸会社「吉安」(佐藤和成社長、東京都足立区)。佐藤社長は86年に同社入社し2005年に社長に就任。この間に「金物卸問屋を通し日本の食文化を継承していかなければいけない」という強い使命感を持つようになり、「卸し」からショップ提案もしようと考え、11年に埼玉県川口市に1号店をオープンさせた。
各店舗では「日本の食文化をつかさどってきた道具はじめ新旧取りまぜた多種多様な商品」を取りそろえ、商品ラインアップは約3000点。店頭に並んでいないものを合わせると約1万点を取り扱う。略称で「調理小物」とよばれる売り場にはそれぞれの使いかに応じた道具が数種類ずつ並ぶ。あえて「非効率」や「時代遅れ」と向き合って、調理に応じた品揃えにこだわり「日本の食文化の継承」に貢献したいという。
「和食」の無形文化遺産登録がミッションに追い風
「金山新吉」の取り組みを始めた2年後の13年12月に、「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録され、以降、独自のミッションにしたがって店舗戦略を展開している同店にとっては強力な追い風になっている。というのも、登録されたのは「食」ではなく「日本人の伝統的な食文化」だから。遺産登録後の2年間で、新宿店まで4店が相次いで開店したものだ。
同店は16年12月出したリリースで「キッチン用具売り場は、効率のみが優先され、月に1、2個しか売れないものは排除され、どこも画一的で面白味のないものになってしまった。その一方、新潟の燕三条地域などにある小規模な工場で作り続けられている道具がある。これらを世の中に紹介していく場がなければ、食に関する習慣も文化も継承されなくなってしまう」と、ミッションの「続行宣言」を行っている。