82歳で書いたチューバの魅力を引き出した曲
ロマン派の時代まで、オリジナル作品が少なく「音楽後進国」ととらえられていたイギリスに、19世紀後半の近代以降、優れた作曲家が次々と現れます。エルガーなどと並び称される作曲家、ヴォーン・ウィリアムズは幅広いジャンルの作品を残し、イギリスの近代音楽に重要な貢献をします。協奏曲の分野では、ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、といった定番の楽器をソロとしたもののほかに、ヴィオラで2曲、ハーモニカ、そしてチューバを独奏に指定した作品を残したのです。若いころトロンボーンを学んでいたことのあるヴォーン=ウィリアムズは、チューバに親しみを感じていたのかもしれません。
彼がこの史上初めてのチューバ協奏曲を書いたのは、82歳の時でした。時はすでに1954年、第2次大戦が終わってほぼ10年になろうとしていた時でした。それだけ、チューバの独奏的作品が作られるのには時間がかかったわけですが、数々の名曲を残した老練なヴォーン=ウィリアムズが書いたこの協奏曲は大傑作となり、チューバの欠かせないレパートリーとなりました。チューバの太い低音から、どことなく甘さやせつなさを感じさせる高音までを縦横無尽に使い、オーケストラだと「縁の下の力持ち」と思われていたチューバの幅広い魅力を引き出したこの曲を聴くと、チューバの能力の高さに驚かされます。
特に、チューバ以外の独奏楽器...ファゴットやチェロで独奏パートを演奏してもよい、と指示されている第2楽章「ロマンス」は、イギリスの古い音楽にも造詣が深かったヴォーン=ウィリアムズならではの歌心と雰囲気が満載で、この曲の人気を高めるのに重要な役割を果たしています。
(以下情報)この曲が聴ける機会があります。
● 私がプレゼンターを務めるクラシックラジオOTTAVAの主催する、2月18日(土)15:00~のサロンコンサートでは、チューバ奏者の橋本晋哉さんをお迎えして、ピアノは私で演奏します。
詳しくは以下のリンクをご覧ください。ネットでお申し込みができます。
https://ottava.jp/salon/form2.html
● 私が支配人(司会者)を務める NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」の2月12日(日)20:20~20:55の放送(2月17日(金)9:20~9:55再放送)では、チューバ奏者の金宇浩さんをお迎えしますが、ここでもヴォーン=ウィリアムズのチューバ協奏曲 第2楽章 ロマンス が演奏されます。
本田聖嗣