人口減少なのに増える住宅・超高層マンション 将来は3戸に1戸が空き家に

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超高層マンション「不良ストック」化、人口減少の郊外農地に新築が

   東京の湾岸エリアに行くたびに、新しい超高層マンションが次々と建っていることに驚かされる。これらの地域には、「都心居住の推進」や「市街地の再開発」を目的として、特別に、容積率や高さ規制・用途規制等の大幅な緩和が認められており、近年の林立ラッシュにつながっている。

   評者の周りにも、宿舎暮らしを脱し、東京の臨海部の超高層マンションに思い切って「終の住まい?」を求める同僚が見られるが、本書によると、超高層マンションは、一般的な分譲マンションと比べて、①火災・災害時のリスク、②建物の維持管理や老朽化した場合の対応に関する合意形成の困難などがあり、将来的に「不良ストック化」するリスクがあるという。

   特に、住民(区分所有者)間の合意形成の問題は至難だとする。

   実際、総戸数が多い大規模なマンションほど管理費の滞納が多く、500戸を超える規模のマンションの場合には、5棟に1棟で滞納住戸が総戸数の1割を超えるという。

   最終的に超高層マンションの寿命が尽きた時に、建て替えるのか、それとも区分所有権を解消して解体するのか、その際の解体費用をどう捻出するのかなど、一般的なマンションですら容易に解決できない終末期問題を、住民間の連帯意識が乏しい超高層マンションの場合、どうやって住民の合意を得ていくのか、また、こうした合意を取り付ける能力を管理組合が持っているのだろうかと考えると、他人事ながら心配になる。

   著者によれば、「私の周りにいる建設や都市計画の仕事をしていて、購入可能な年収層と思われる知人で、実際に超高層マンションを購入した人はほとんどいません」という。

   埼玉県の川越市や羽生市など大都市郊外や地方都市では、既成市街地(市街化区域)は人口が減少する一方で、農地エリア(市街化調整区域)で新築住宅や賃貸アパートが建てられ、人口が増加するという現象が見られる。

   こうした事態は、市街化調整区域の開発許可基準が緩和され、市町村が条例を定めれば、農地エリアでも宅地開発が可能となったことによって生じた。「人口を増やしたい」という動機から、約3割の市町村で実施されているが、これまでのところ、旧住民と新住民との軋轢、まちなかの市街化区域の開発意欲の低下、賃貸アパート乱立に伴う地域全体の家賃の下落や空き家率の上昇など様々な副作用が生じている。

   加えて、隣接する市町村相互間で、限られた人口・開発需要を奪い合うために、規制緩和を繰り返すという「規制緩和合戦」とも呼べる悪循環も生じている。

   こうした農地エリアでは、下水道や道路などの基本的なインフラが不十分であり、また、将来的には人口減少によって、ゴミ回収、救急医療、道路の維持管理などの行政サービス、さらには、宅配、訪問介護などの生活に必要なサービスが、移動時間の非効率や財源不足から十分に提供されなくなるおそれがある。

   本書によれば、地方都市では、ホームヘルパーが1日で回れる世帯数が以前より減ってきているという。移動距離が長いために時間通りに訪問できなくなっているというのだ。

   こうした事態を招来するに至って、市長交代によって、過度な規制緩和の見直しが行われる(川越市)など、新しい動きもみられているが、一度、規制を緩和し、農地をつぶし、無秩序な宅地化が進むと、利害関係者の抵抗も強まり、政策変更は容易ではないという。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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