ドイツ映画賞最多6部門受賞
映画だから、すべてが史実通りではないだろう。実際、バウアーが唯一信頼する部下として登場する同性愛者の若き検事の存在はフィクションらしい。だが、「西ドイツ政府はナチス戦犯追及にネガティブだった」「バウアーからの情報提供でモサドが動いた」という映画の核心部分は、おそらくその通りと思われる。要するに、戦後のナチ戦犯追及史で最大級のセンセーションを巻き起こしたアイヒマン事件の陰の主役はバウアーだったのだ。
映画は15年の製作でドイツ映画賞最多6部門受賞、ドイツ映画批評家協会作品賞、ロカルノ映画祭観客賞など多数の賞を受賞している。
現代史の深層に迫った映画ということもあって、日本でも関心が高い。
「バウアーの固い信念が伝わってくる上質なサスペンスドラマに仕上がった」(毎日新聞)
「戦後とはいえ元ナチ党員が政治などの中枢に残り、戦争犯罪の追及もままならぬ時代の空気を色濃く映し出す」(日本経済新聞)
「バウアーと若手検事の孤高の闘いに、わずか四人でアル・カポネに立ち向かう『アンタッチャブル』(一九八七年)に似た醍醐味が感じられる」(東京新聞)
試写を見た田原総一朗さん、久米宏さん、蟹瀬誠一さんなど多数のマスコミ関係者や映画人らも、様々な感想のコメントを公表している。今も歴史を直視し「過去の克服」に力をそそぐドイツの姿に触発され、感慨を新たにしたようだ。