「本当にそんなことがあったのか」――外国映画にはときどき驚かされることがある。
公開中のドイツ映画「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」も、そうした「びっくり映画」の一つだ。
モサドの執念が実る?
1960年、ナチスの超大物戦犯アドルフ・アイヒマン(1906~62)が潜伏先のアルゼンチンで捕まった。ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)に深く関与し、何百万人ものユダヤ人を強制収容所に送った元ナチス幹部。世界を揺るがす大ニュースになった。イスラエルの情報機関モサドの執念の追及が実ったとされてきた。
しかしこの映画は、新事実を明かす。ナチス犯罪の告発に燃え、アイヒマンの所在確認に直結する重要情報を入手したのは、西ドイツ・ヘッセン州の検事長フリッツ・バウアー(1903~68)だったというのだ。当時の西ドイツには、検察査当局や政府部内にナチの残党がたくさんいて、独自捜査をしようにも妨害が予想された。そこでバウアーは自分がつかんだ極秘情報をこっそりモサドに流し、それが身柄確保につながったという。
アイヒマンが裁判にかけられ、処刑された後も、バウアーの関与は長く秘匿されてきた。自国のつかんだ情報を勝手に他国の捜査機関に流すことは重い犯罪になるからだ。この映画を作ったドイツのラース・クラウメ監督(43)自身、少し前までバウアーについての詳細を知らなかったという。
バウアーはユダヤ人で、戦前は政治犯として強制収容所に収容されていたこともある。そこでナチスに転向を誓い、その後は亡命していた。映画はそうした彼の屈折した人生も下敷きにしながら、サスペンスタッチで「アイヒマン確保」へと突き進む。