「突然、関節に激痛が・・・」。誰だって1度や2度、こうした経験はあるだろう。もしかするとそれは、痛風の発作だったのかもしれない。古くは古代マケドニアのアレキサンダー大王、フランスのルイ14世も苦しめられており、日本では1960年代以降、急速に増加の一途をたどっている。高タンパク、高脂肪の欧米型の食事への転換が進み、飲酒量が増加したのが主要な要因だという。
痛風の原因物質「尿酸」の約3割は、食べ物由来のプリン体によって生成される。プリン体は食品の「旨み」の成分であり、さまざまな食品に含まれている。痛風は夏になりやすいとよく言われるが、食生活が乱れがちな「冬」も注意するべきだという。「新年会シーズン」にはどう対処するべきか、J-CASTトレンドは帝京大学薬学部の金子希代子教授に取材し、冬の食生活の注意点を聞いた。
痛風のリスクが大きい酒は「ビール」
――冬の食べ物の中で、特に注意すべき食材は何ですか。
「プリン体が多いのは白子、レバーなどです。そもそもプリン体とは、プリン骨格という構造を持つものの総称で、遺伝情報の設計図であるDNA、RNAなどの核酸や、エネルギーを蓄えるATPなどがあり、中でも比率が大きいのは核酸です。1つの細胞には必ずDNAが入っているので、100グラムあたりの細胞の数が多いものほどプリン体は多いとされています。白子は精巣、つまり精子の固まり。精子にはタンパク質とDNAしか入っていないので、白子のプリン体は多いといえるのです」
―― 一般的にはイクラやカズノコなどの魚卵もプリン体が多いイメージがあると思うのですが...実際のところはどうなのでしょうか。
「魚卵のプリン体は決して多くありません。プリン体含有量(100グラムあたり)はイクラ3.7ミリグラム、カズノコ21.9ミリグラムに対し、レバーや白子では300ミリグラムを超えます。魚卵は卵1個が1つの細胞なので、重量あたりの細胞数が少ないため、プリン体は少ないといえます」
――プリン体が少ないのはどんな食材ですか。
「野菜類は全般的に少ないです。タンパク源だと、豆腐などの豆製品は多くないです。豆そのものは少なくないのですが、豆腐は水分が入っているので100グラムあたりの量が少なくなります。あとは果物や穀類、海藻、キノコ類も」
――「こんな人はプリン体の摂り過ぎに注意すべし」という例がありましたら、教えてください。
「太っている人は少なめにした方が良いでしょう。食事療法で体重を減らすと血清尿酸値も低下するのが知られています。肉ばかり食べる人は、どうしてもプリン体の量が多くなってしまうので、1日おきに魚も肉も食べるように変えた方が良いですね」
――バランス良く食べるのが1番、だと。
「ええ。ただ、バランス良く食べていても痛風になる方もいらっしゃいます。運動もしているし酒は飲まない...。色々と気を付けているのに痛風になったそうです。その場合は、『体質』つまり『遺伝』なのです。既にいくつか、痛風と関係ある遺伝子が報告されています。そうなると、どうしようもなくなってしまいますが...」
――このシーズン多いアルコールの機会。気を付けるべきアルコールの摂り方は?
「ワインはお酒の中で、最も痛風のリスクが小さいです。これは尿酸値を下げる効果のあるポリフェノールが含まれているからです。最も痛風のリスクが大きいのはビール。麦芽のような芽が出ているものは、細胞分裂をしている部分が多いので、プリン体も多くなる。お酒は尿酸値、痛風のリスクともに高めるので、は飲み過ぎないようにするのが大事ですね」
――ビールはワインなどと比べ、何杯でも飲めてしまうからこわいですよね。
「そうですね。日本痛風・核酸代謝学会が勧める飲酒量は、ビールだと500ミリリットル、蒸留酒だと40ミリリットル、ワインだとグラス1杯分。痛風の発症と関係のある遺伝子の1つに、アルデヒドデヒドロゲナーゼがあります。それがしっかりとした人ほど、お酒に強い体質なのですが、最近になって防衛医大の松尾洋孝講師らの研究チームによって『お酒に強い人ほど、痛風のリスクが高くなる』と発表されました」
―― ほかに、お酒を飲む際に気をつけることはありますか?
「水を飲むのも重要ですよ。尿酸の7割は尿で排泄されるため、尿の量が増えると尿酸は排泄されやすくなります。水を飲めば飲むほど、尿酸の排泄に結び付きます。お酒を飲んだら、水を飲むという風に徹底すると良いかもしれませんね」