アニメ的手法の先駆者
クラーナハは「速描き」の画家として知られた。実際に描くスピートも速かったが、加えて二つの理由があった。一つは「パターン化」、もう一つは「工房制作」だ。
人物の表情や構図をいくつかに類型化して基本パターンを作り、それをもとに工房で弟子たちが作業する。さらに版画も多用し、制作や流通をスピードアップした。現在のような技術がない時代に、独自に大量生産や複製のノウハウを編み出していた。いわば絵画制作の世界での「改革者」でもあった。そうした彼の技術力は、ルターの新約聖書の拡散にも、一定の役割を果たしたかもしれない。
「パターン化」や「工房制作」などの手法は、今やアニメなどの現場で一般化されている。その意味ではクラーナハの現代への影響は「クール・ビューティー」だけにとどまらない。
今回の展覧会では、ピカソ、デュシャン、森村泰昌ら、20世紀や21世紀のアーティストがクラーナハに触発されて制作した作品も同時公開されている。中世の画家の回顧展としてはきわめて珍しい。それだけクラーナハの世界が豊かで、先駆性、先見性があったということだろう。
同展は東京の後、大阪に会場を移し、1月28日から 4月16日まで国立国際美術館で開催される。