では、働き方をどう変えるのか
『正社員消滅時代の人事改革』(2012年)は、人事制度の研究者として長年企業と対話してきた今野氏が、今後の人事制度、働き方の見直しの方向性を具体的に示そうとした苦心の作である。今野氏が注目するのは、松元氏も指摘していたように、企業側で新しい働き方へのニーズが高まっていることとあわせ、労働の側でも、高齢社員、女性社員、病を抱えた社員、家庭に要介護者を抱えた社員など、無制約に働くことができる旧来の正社員とは違う「制約社員」の割合が高まり、新しい働き方へのニーズが高まっていることである。
こうした需給両面からの労働への新しいニーズに対応するため、今野氏の提唱するのは、正社員と非正社員を隔絶した「一国二制度」型の人事管理から、社員を身分ではなく仕事基準で公平に管理する多元的で柔軟な人事管理への転換である。本書では、個別企業の人事制度が紹介されており、労使双方が働き方をどう変えていくか考察する際の指針となるものである。
政府で「働き方改革」がはじまって以降、りそなホールディングスの職務等級制度が広く知られるようになった。りそなの制度と本書の描く制度は、多様な社員をできる限り同一の制度に乗せ、社員ステータス間を相互に移動しやすくするなど共通点が多い。政府が取り上げるまでもなく、現場は必要に迫られて変革を重ねてきたということになる。ただ、働き方は国民ひとりひとりの問題であるし、また判例を含む労働法制によって枠づけられている面もある。政労使の取り組みを通じて、相乗効果があげられるか注目していきたい。
それでも...
これまでみたように、我が国の直面する問題の多くが働き方に淵源を持つのであり、改革論議における働き方のポジションをもっと高める必要がある。他方、それでも、問題の由来が労働にあったとしても、問題発生以来すでに2、30年の時が経過したことの事実は重い。正社員になることができず訓練を受けてこなかった層が中年にまで達し、我が国の人的資本を大きく毀損してしまった。少子化によって第三次ベビーブームが起きなかったことは、我が国の人口構造に長きにわたり修復不能な歪みを残した。もはや働き方を見直すだけでは不充分なところに我々は立っている。ただ、それでも、働き方の問題が改革の中心的な課題であることはもっと認識されてしかるべきだと思うのである。
経済官庁(課長級) Repugnant Conclusion