すべての問題は働き方からやってきた
『「持たざる国」からの脱却』(2016年)は、IT革命によるモジュール化という生産構造の激変によって、日本人の働き方が世界から取り残されたことを指摘している。そして、そのことが、日本のマクロ的な低成長、低生産性、ワーキングプア等の社会保障の機能不全、ワークライフバランスの喪失、少子化など我が国の抱える経済社会問題の多くの淵源となっていることをひも解いている。我が国の立ち位置を再認識する上で、本書には広く手に取られるべき価値がある。GDPは我々ひとりひとりが働いて加える付加価値額の総計なのであるから、ひとりひとりの働き方に無駄があり、創意にも工夫にも欠けるのであれば、低成長は当然の帰結なのである。油断していると、我々はその厳然たる事実をすぐに忘れてしまう。
筆者の松元氏は内閣府次官をつとめた人物である。筆者の認識と現在政府で進めている「働き方改革」との間には働き方の中心的重要性という共通の問題意識がある。この問題意識が政府内で広く共有されてきたことの証左であろう。「働き方改革」では、同一労働同一賃金、長時間労働、女性活躍、病気治療と仕事の両立、柔軟な働き方など様々な課題について議論がなされている。すでに同一労働同一賃金のガイドライン案が公表されているが、改革全体としては16年度末までに方針を示すという。「働き方改革」は対野党の政治戦略の一環として評する向きがなくはないが、この問題にどういう答えを出すかが、今後の日本のあり方を左右する大きな要素であることは間違いないだろう。