J-CASTニュースの読者の皆様、はじめまして。今回からJ-CASTニュースとの共同企画として、「コンテンツ×企業」という切り口にて連載をはじめます、ガリガリ編集部です。我々、ガリガリ編集部は、日頃「ガリガリ」というB to B向けメディアを運営しています。今回は、連載第一弾としてサントリー天然水×『君の名は。』のコラボレーションの試みを取り上げます。
2016年8月に公開され3ヶ月あまりで興行収入200億円を突破、記録を更新し続けている新海誠監督の映画『君の名は。』。米ロサンゼルス映画批評家協会賞でアニメ映画賞を受賞し、中国では公開から3日で50億円を突破するなど今もなお反響はとどまりません。
そんなヒット映画の公開に先駆け実現したのが『君の名は。』と「サントリー 南アルプスの天然水」「サントリー ヨーグリーナ&南アルプスの天然水」とのコラボレーション。 新海監督のディレクションのもと完成した三篇のスペシャルCM。RADWIMPSの音楽と製品、そして映画の魅力が融合した映像は映画の公開にあわせテレビCMやYouTube、SNSなどで公開され、若者を中心に大きな反響をよびました。
このコラボレーションを企画したのがサントリービジネスエキスパート株式会社 宣伝部の中村勇介さん。同社で宣伝に携わって5年、これまでにもC.C.Lemon 擬人化プロジェクト(2012年)やオランジーナ擬人化プロジェクト(2013年)を手がけてきた中村さんに『君の名は。』スペシャルCM誕生の経緯や裏側を聞きました。
天然水 × 君の名は。スペシャルサイト http://www.suntory.co.jp/enjoy/movie/kiminona/
過去のコラボがつないだ縁で大ヒット企画が実現
──中村さんは宣伝としてどのようなことを担当しているのでしょうか。
中村 サントリービジネスエキスパート宣伝部では、サントリーグループの事業会社の宣伝機能を横断的に担っています。たとえば「南アルプスの天然水」ならサントリー食品インターナショナル株式会社と、「ザ・プレミアム・モルツ」であればサントリービール株式会社と協働します。各事業会社に様々なブランドがあり、事業会社メンバーはブランド側、僕らはユーザー、メディア側の目線に立って常にクロスしながら宣伝活動をしています。
──宣伝とはいっても、様々な立ち位置があるんですね。
中村 僕らは、各ブランドがコミュニケーション施策を打つ時はどういったメディア展開をすればいいか、どうすればターゲット層に届くかをプランニングしていくのが主な仕事。お客様に愛されるコンテンツとのコラボ企画をブランド担当に提案していくコンテンツ開発もしています。
──率直に、今回の広告をやってみて手応えはいかがでした?
中村 非常によかったです。たくさんの嬉しいお問い合わせもいただきましたし、お蔭様でブランドも非常に好調です。SNSの反響もとても大きくて。スペシャルCMを見て製品を購入した方に「CM見る度に、すごく飲みたくなる。美味しい!」と言っていただくこともありました。
──スペシャルCMは互いを探す瀧と三葉、心に残る音楽とナレーションが印象的な映像でした。まずは中村さんが『君の名は。』を知ったきっかけを教えてください。
中村 もとは3年前に公開された『言の葉の庭』内でサントリー製品を描いていただいた取組みをきっかけに、コミックス・ウェーブ・フィルムとのご縁が生まれました。過去の作品も非常に素晴らしく、私を含め弊社の者もファンになり、またぜひお仕事でご一緒できればと考えていました。その後、『君の名は。』を制作されるとお聞きしたときに「一緒にやりましょう」とお話がスタートしたのがコラボのきっかけです。
──『君の名は。』から何か持ち上がったわけではなく下地があったんですね。映画の脚本を読んでどう感じました?
中村 素直に、すごく感動しました。脚本を読んだだけで物語が美しいアニメーションで再生されて「これはすごくいい映画になるに違いない」とイメージできましたし、いちファンとしても楽しみで、絶対に素敵な映画になる! と感じましたね。
──そこから各関係者へどういう風にお話を進めていくのでしょうか。
中村 コラボ企画内容を相談しながら、作品の世界に合う弊社のブランドはなにかを決めました。やはり、映画の魅力が最大限に表現されファンに受け入れてもらった上で、弊社のブランドを愛してもらうのが大切ですから。世界観に合わなかったり、映画の良さを損なうものにならないように気をつけながら、その良さが最も生きるブランドは何かを色々と議論していきました。
──その結果「南アルプスの天然水」と「ヨーグリーナ&南アルプスの天然水」に決まったんですね。
中村 そうですね。この作品はSNSを中心にメディアセッションしている若者に強いコンテンツだと思ったので。
──若者に響くコンテンツであれば、他にもさまざまなブランドも可能性があったのでは。「南アルプスの天然水」「ヨーグリーナ&南アルプスの天然水」だったのは少し意外な気もします。
中村 確かに、コミュニケーションターゲットのブランドそのままで進める手もあると思いますが、今回はそれとは異なるアプローチをとりました。「南アルプスの天然水」「ヨーグリーナ」は若い方から年配の方まで幅広い層に親しんでいただけるブランドですが、今回のコラボレーションによってより若い方に情報を届けることができるのではないかと。また、作品イメージ、ブランドの両方がより魅力的になる宣伝がトータルとしていい結果をもたらすのではと思いました。
コラボの決め手はコンテンツへの絶対的な信頼感
──サントリー社内で企画を通す際は苦労しましたか?
中村 前作『言の葉の庭』で製品を登場させていただいた時に、非常に魅力的に描いていただき、お客様にも好評だったこともあるため、そのお話も出しながら検討していきました。映画は素敵な作品になるだろうと思っていたものの、さすがにここまでのヒットは予想できなかったので「これまでの評価もふまえ期待して欲しい」という進め方です。もちろん、一朝一夕ではなかったですが。あとは、どういう組み方をするか。
──「組み方」?
中村 広告メニューのように決まったものがあるわけではないので、どんな形であれば作品とブランドの組み合わせが最大限魅力的になるか、を決めることですね。今回であればスペシャルCMの制作です。
──実際にGOサインが出た決め手は?
中村 それはもう"新海監督の新作とのコラボレーションによるオリジナルである"に尽きます。ファンを中心に、誰が見ても素敵なアニメーションになる、ということはずっと信じていたので。
──完成したスペシャルCMは三篇ですが、この構想はどのようにして生まれたのでしょうか。
中村 CM制作は「映画の魅力を最大限に表現しながら、ブランドを愛してもらえるような」ものにしたい、と広告代理店のクリエイターの方々とディスカッションを重ね、この形になりました。
──映像に対しては、何かオーダーはかけましたか?
中村 スペシャルサイトに検討時の絵コンテが掲載されていますが、完成映像はそこからほぼ変わっていないですね。我々も素晴らしいと思ったし、これが一番だろうと思います。
──『君の名は。』では作中にもサントリー製品が登場しますね。
中村 ストーリーラインやキャラクターの特性にも合った形で、印象的なシーンに、魅力的に登場させていただくことができ、非常に嬉しく思っています。
コラボ企画の成功の裏には社内理解と担当者の愛
──公開されている原画には、特にペットボトル部分にアニメーターの細かい指示が入っていたのが印象的でした。
中村 とてもリアルで、それでいて美しい新海監督の作風に合わせアニメーターの方が入れてくださったんですよね。ボトルと水の向こうに透けて見えるラベルまで綺麗で、社内のみんなも驚いていました。そういった部分に対する感動がお客様からもたくさん届きましたね。光や水の表現が素晴らしい。
──アニメとコラボする場合、他のジャンルのものと比較して何か違いはありますか?
中村 特にありません。今回も「アニメだから」ではなく、新海監督はもちろん、コミックス・ウェーブ・フィルムさん、東宝さんとご一緒していい作品を作りたいという思いだけでした。
──お話の中で天然水のブランドを若年層にもっと届けたかったとありましたが、若者はどういったところから情報を受け取っていたでしょうか。
中村 このコラボでいえば、やっぱりSNSは欠かせないです。新海監督の映画と組むとなればTwitterはとても重要な役割を担っていたと思います。目に見えるかたちでシェアされていくTwitterは若者と相性がいい。それだけではなくYouTubeも映像を見せるために大切だし、楽曲がRADWIMPSだったので音楽ファンは彼らから情報を得たはず。フォロワーも多いのでシェアにつながりました。
──ちなみに、中村さんご自身はアニメは好きですか?
中村 マンガ、アニメ、ゲームも好きです。新海監督は『秒速5センチメートル』からのファンだったので、コラボ企画は宣伝担当としても、ファンとしても嬉しかったです。
──コンテンツとコラボするのはもともと好きな人じゃないと難しいでしょうか。実際にやっている方からするとどうですか。
中村 そうじゃなくてもできることはできると思いますが、どういった部分にお客様がグッと心を動かされるポイントがあるかは担当が自分の口で語れたほうがいいと感じました。僕はもとから新海監督のファンなので、半分仕事、半分自分の気持ちみたいなところはありますね。
──社内に提案する際に、アニメとのコラボに否定的な意見はあるのでしょうか。
中村 「アニメだから」で否定されたことはないです。サントリーは新しいことにチャレンジしていく組織風土なので、それが先駆けたものかどうかを意識しています。そういった意味では恵まれていますね。ただ、みんながアニメに親しみをもっているわけではないので、その作品がどういったものかを説明する力は必要です。
──最近はキャラクターやコンテンツを使ったプロモーションが増えていると思います。
中村 確かに以前より増えていますね。かといって手法ありきにならないように気をつけています。その都度"いま何がいいか""ブランドのコンディション""どこと掛け合わせればハマるか"を見ています。
──どういった方面に注目すればいいかを掴むため、どのようなことをしていますか?
中村 僕はデジタルメディアをメインに担っているので、SNSと呼ばれるものはチェックするように心がけています。デジタル上で話題になったものや、どんなことがポイントとして考えられるのか。メディアも色々なものがあって、同じSNSでもMixChannelとFacebookは文化が異なりますよね。そういったものに触れておく。ただ、自分の感覚だけでは限界があるので代理店、メディア会社、コンテンツホルダーなど色々なパートナーとやりとりをしたり、チームのメンバーと持ち寄って議論をしたりして情報収集しています。できる限り、冷静にフラットな目線と、自分の感覚の両方を行き来することを大切にしています。
今回、連載第一弾として、本企画を取り上げたのは、『君の名は。』の大ヒット前から、綿密に練られたプロモーションが決まっていた、という点にガリガリ編集部として大変驚いたことがきっかけです。世に出る前のコンテンツとのコラボレーションは、反響がなかなか見えず、プロモーション担当者としても社内に提案をしづらい部分があると思います。
だからこそ、中村さんの口から出た「(新海誠監督の新作は)誰が見ても素敵なアニメーションになる、ということはずっと信じていたので」という言葉にこもった強い思いが、今回の企画のすべての発端だったのだと強く実感した次第です。
次回以降も熱のこもったコラボレーションの裏側をお伝えさせていただきます。どうかお楽しみに!