コラボ企画の成功の裏には社内理解と担当者の愛
──公開されている原画には、特にペットボトル部分にアニメーターの細かい指示が入っていたのが印象的でした。
中村 とてもリアルで、それでいて美しい新海監督の作風に合わせアニメーターの方が入れてくださったんですよね。ボトルと水の向こうに透けて見えるラベルまで綺麗で、社内のみんなも驚いていました。そういった部分に対する感動がお客様からもたくさん届きましたね。光や水の表現が素晴らしい。
──アニメとコラボする場合、他のジャンルのものと比較して何か違いはありますか?
中村 特にありません。今回も「アニメだから」ではなく、新海監督はもちろん、コミックス・ウェーブ・フィルムさん、東宝さんとご一緒していい作品を作りたいという思いだけでした。
──お話の中で天然水のブランドを若年層にもっと届けたかったとありましたが、若者はどういったところから情報を受け取っていたでしょうか。
中村 このコラボでいえば、やっぱりSNSは欠かせないです。新海監督の映画と組むとなればTwitterはとても重要な役割を担っていたと思います。目に見えるかたちでシェアされていくTwitterは若者と相性がいい。それだけではなくYouTubeも映像を見せるために大切だし、楽曲がRADWIMPSだったので音楽ファンは彼らから情報を得たはず。フォロワーも多いのでシェアにつながりました。
──ちなみに、中村さんご自身はアニメは好きですか?
中村 マンガ、アニメ、ゲームも好きです。新海監督は『秒速5センチメートル』からのファンだったので、コラボ企画は宣伝担当としても、ファンとしても嬉しかったです。
──コンテンツとコラボするのはもともと好きな人じゃないと難しいでしょうか。実際にやっている方からするとどうですか。
中村 そうじゃなくてもできることはできると思いますが、どういった部分にお客様がグッと心を動かされるポイントがあるかは担当が自分の口で語れたほうがいいと感じました。僕はもとから新海監督のファンなので、半分仕事、半分自分の気持ちみたいなところはありますね。
──社内に提案する際に、アニメとのコラボに否定的な意見はあるのでしょうか。
中村 「アニメだから」で否定されたことはないです。サントリーは新しいことにチャレンジしていく組織風土なので、それが先駆けたものかどうかを意識しています。そういった意味では恵まれていますね。ただ、みんながアニメに親しみをもっているわけではないので、その作品がどういったものかを説明する力は必要です。
──最近はキャラクターやコンテンツを使ったプロモーションが増えていると思います。
中村 確かに以前より増えていますね。かといって手法ありきにならないように気をつけています。その都度"いま何がいいか""ブランドのコンディション""どこと掛け合わせればハマるか"を見ています。
──どういった方面に注目すればいいかを掴むため、どのようなことをしていますか?
中村 僕はデジタルメディアをメインに担っているので、SNSと呼ばれるものはチェックするように心がけています。デジタル上で話題になったものや、どんなことがポイントとして考えられるのか。メディアも色々なものがあって、同じSNSでもMixChannelとFacebookは文化が異なりますよね。そういったものに触れておく。ただ、自分の感覚だけでは限界があるので代理店、メディア会社、コンテンツホルダーなど色々なパートナーとやりとりをしたり、チームのメンバーと持ち寄って議論をしたりして情報収集しています。できる限り、冷静にフラットな目線と、自分の感覚の両方を行き来することを大切にしています。
今回、連載第一弾として、本企画を取り上げたのは、『君の名は。』の大ヒット前から、綿密に練られたプロモーションが決まっていた、という点にガリガリ編集部として大変驚いたことがきっかけです。世に出る前のコンテンツとのコラボレーションは、反響がなかなか見えず、プロモーション担当者としても社内に提案をしづらい部分があると思います。
だからこそ、中村さんの口から出た「(新海誠監督の新作は)誰が見ても素敵なアニメーションになる、ということはずっと信じていたので」という言葉にこもった強い思いが、今回の企画のすべての発端だったのだと強く実感した次第です。
次回以降も熱のこもったコラボレーションの裏側をお伝えさせていただきます。どうかお楽しみに!