医療用麻薬による疼痛治療 適正使用についてセミナー開催

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   塩野義製薬は2016年12月14日、疼(とう)痛治療に関するセミナー「疼痛治療における乱用防止製剤の意義と重要性について」を都内で開催した。

   アメリカでは、がんをはじめ慢性の疼痛治療にオピオイド鎮痛薬という医療用麻薬が広く用いられている。適正な量に留めれば体に危害を加えることはないが、アメリカでは過量投与がはびこり、社会問題の域に達している。日本にも医療用麻薬を慢性疼痛の領域に適応拡大する動きが進んでおり、乱用のリスクを啓発するため、このセミナーが開催された。

   セミナーでは塩野義製薬が申請中の新たな疼痛治療剤が紹介された後、星薬科大学の鈴木勉特任・名誉教授が「疼痛治療における乱用防止製剤の意義と重要性」について講演した。

  • 講演する星薬科大学の鈴木勉特任・名誉教授
    講演する星薬科大学の鈴木勉特任・名誉教授
  • 講演する星薬科大学の鈴木勉特任・名誉教授

塩野義製薬が乱用防止製剤の製造販売に一歩前進

   塩野義製薬は2016年11月30日、持続性疼痛治療剤「オキシコンドン塩酸塩水和物   乱用防止徐放錠」の製造販売の承認申請を行ったと発表した。疼痛治療に用いられるオピオイド鎮痛薬の一種で、アメリカでは2010年8月に発売されて、2013年には米国食品医薬品局(FDA)が乱用防止特性を持つ薬剤と認定している。簡単にかみ砕けない硬さを誇り、水に混ざると粘性のゲルになるため、砕いて鼻から吸ったり、水に溶かし注射器で抜き取って体に注射したり、噛んで飲み込んだりできない。この「乱用防止徐放錠」の登場で、アメリカでは医療用麻薬の乱用や依存による死亡件数が減少し、気分の高揚を目的とした不正使用の割合も下がったという。

   アメリカと比べ、日本ではどれほど医療用麻薬が使用されているのか。世界保健機関(WHO)が2010年に発表した医療用麻薬の適正使用量と実消費量によると、実消費量が最も多いのはアメリカ(482 mg/人)で、次いでドイツ(390 mg/人)だが、適正使用量はそれぞれ210、213で、過量投与の実態が如実に浮き彫りとなった。対する日本は適正使用量189、実消費量29だから、まだ十分に医療用麻薬を使っていないか、使っていても痛みを取り除く量には届いていないといえる。

なぜ日本でオピオイド鎮痛薬の服用が増えないのか

   鈴木教授は厚労省の統計を元にしたグラフ「日本の医療用麻薬の消費量の変化」を取り出し、

「(消費量は)2009年をピークに微減しています。慢性疼痛にも使われるようになり、がん患者は増えているのに、使用量は減っている。まだ必要な患者に届けられていないのは明らかです」

と話した。

   その上で、2016年2月の「患者とがん治療医のGAP調査」というアンケート結果に触れて「ドクターの思いと患者の思いがどれだけかみ合っているのか」を説明した。アンケート結果によると、患者に「身体の痛みを経験したら伝えてほしい」と話したつもりだった医師の割合は95.1%だったが、そう聞いた覚えのある患者は38.0%に留まった。「(がんの症状で)身体に痛みが発生することがある」と伝えたつもりだった医師は94.1%、認識していた患者はわずか30.2%だった。

   鈴木教授は「こうした患者と医師のコミュニケーション不足が、十分な疼痛コントロールに至らない一因ではないかと思う」と言う。

   講演後に設けられた質疑応答で「日本でオピオイド鎮痛薬の服用が増えないのは、医療者側が痛みを我慢させているのか、患者が知らないのか、どちらに原因があるのか」と聞かれると、

「両方にあると言った方がいいと思う。医療者側では、ペインクリニックをはじめ、がんの緩和ケアに関わる医師は理解して積極的に使っているが、それ以外の科の医師はあまり処方していない。もう1つは、子どもたちへの教育だ。医療用麻薬が医薬品として出ており、がんの痛みを抑えるのに必須のものだと全く教育されていないのが現状。麻薬を使うと寿命が縮まるなどと教育されているので、なかなか理解が進まない」

と話した。

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