2025年の超高齢社会、若い世代に希望をもたせる改革とは

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   ■『2025年、高齢者が難民になる日~ケア・コンパクトシティという選択』(小黒一正編著 日経プレミアシリーズ)

   ■『LIFE SHIFT(ライフシフト)~100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著 東洋経済新報社)

    国会の会期が延長され、年金改革法案が参議院で審議中だ。団塊の世代の多くが年金支給年齢の65歳に到達する2015年は重要な改革を済ませる年度の目処であったが、もはやそれは過ぎた。経済官庁の1人として、財源論を脇に置いた政治的な反対論を見せつけられて、「シルバーデモクラシー」の負の側面が如実に噴出しつつあると、深刻に懸念する。

『2025年、高齢者が難民になる日~ケア・コンパクトシティという選択』(小黒一正編著、 日経プレミアシリーズ
『2025年、高齢者が難民になる日~ケア・コンパクトシティという選択』(小黒一正編著、 日経プレミアシリーズ)

コンパクトシティと地域包括ケアシステムの融合

   今の政権に極めて批判的な毎日新聞でさえ、12月1日付「一本社説」(その日の社説欄を全面使用し論説委員会の意見をきちんと述べる)で、政府の説明不足を批判しつつも、今回の改革の眼目である「年金制度を長期的に持続可能にするために支給水準を賃金水準に連動させていくことはやむを得ないだろう」との指摘していることを、素直に重く受け止めたい。

   老後の生活には、年金のほか、医療や介護サービスが安心して受けられるかが、死活的に重要だ。この問題を分析・検討した最近の好著として「2025年、高齢者が難民になる日~ケア・コンパクトシティという選択」(小黒一正編著 日経プレミアシリーズ 2016年9月)をあげたい。編著者の小黒一正法政大学教授は、本書で、「団塊の世代が後期高齢者となる2025年には、要介護や認知症の人の割合が高い後期高齢者(75歳以上)が約2,200万人となり、高齢化率30%を超える」という見通しから、人口集約を図る「コンパクトシティ」と「地域包括ケアシステム」を融合した「地域包括ケア・コンパクトシティ」(略称:ケア・コンパクトシティ)の構想を解決策の方向として打ち出した。これを進める指令塔の必要性や、年金財源の1%をケア・コンパクトシティ実現に振り向けるアイディア、実務を担う「地域包括ケア運営法人」創出のための新規立法の提案など課題解決に向けた提言なども一読の価値がある。

「人生についての考えを変えることが不可欠」

   話題の書「LIFE SHIFT(ライフシフト)~100年時代の人生戦略」(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著 東洋経済新報社 2016年11月 原題:THE 100-YEAR LIFE)は、確かに注目すべき1冊だ。本書の帯には、「世界で活躍するビジネス思想家たちが示すまったく新しいビジョン」とある。

   著者による日本語版への序文で、「本書では、読者が長寿化を厄災ではなく、恩恵にするために、どのように人生を築くべきかを考える手引きとしたい」という。そして、「若々しく生きる年数が長くなる」と、「職業生活と家庭生活の両面で『よい人生』とはなにかについて考えを変えることが不可欠だ」いう。

   パートナーの両方が職を持つメリットは明らかとなり、人生が長くなることで人生の途中で変身を遂げる必要性も高まる。「人々が、70代後半や80代になっても活力と生産性を失わず、長く働き続けられれば、年金問題や人口減少の弊害はだいぶ和らぐ」のだ。

   序章の「100年ライフ」では、「変えるべきなのは、何よりも時間の組み立てだ。なにしろ、長寿化が進めば人生の時間が大きく増える。・・1週間は168時間、人生70年なら一生涯は61万3000時間だが、人生100年なら一生涯は87万6000時間になる」という具体的な数字は目をひかされる。「時間の組み立てと順序は、基本的にその時代の産物だ。長寿社会になれば、それが変わり、新しい時間の概念が生まれるだろう」という。

   ただ、企業の人事制度をめぐる個人と企業の間の激しい戦いは、「産業革命の時代に労働時間と労働環境をめぐって戦われた戦いに匹敵するものになる」としている。

   著者は、未来を見通すことは難しいとしつつ、実験の活発化、多数のパイオニアの誕生、多様性の高まりなど新しい時代を前向きに展望する。

   若い世代に大いなる希望を持ってもらうためにも、現役世代としては、今の現実を直視し先送りせず課題を解決していく必要性を、改めて痛感する。

経済官庁 AK

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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