インターネットのあり方についての議論
本書では、インターネットの将来に関するインタビューも多く掲載されている。インターネットのデータ伝送を担うアカマイ社の創業者でもあるトム・レイトンは、インタビューの時点で、携帯電話へのシフトや映画などの映像配信の増加を予測していて、実際にアカマイ社はこの流れに乗って今も成長を続けている。レイトンは、インターネット業界の将来について、「他の巨象がわれわれ(アカマイ社)を踏みつぶさないように、良きパートナーとしてともに歩んでいけるよう、気をつけなければならない。複数の巨象がいて、どの1社もインターネットを独占する訳にはいかない、というのがいい」としている。実際、現在のインターネットは、アカマイの他にもGoogleやFacebook、Appleといった巨象がいて、今の時点ではレイトンのいうような状況になっている。
これに対し、ノーム・チョムスキーは、「ほんの半ダースくらいの会社がインターネットに対するアクセスをコントロールしている」現状に警鐘を鳴らしている。チョムスキーは、インターネットに対する規制について反対の立場をとっており、「完全に自由にしておくために、公共部門下に置いておくべきだったかもしれない」とまで言っているが、公共部門の下でインターネットがここまで発展したのか?という疑問も残るところである。インターネットの在り方については、チョムスキーが懸念している情報へのアクセス手段の局所的な集中に加え、近年のサイバー攻撃・サイバー犯罪の増加という文脈からも議論を続けていかなければいけないのだろう。
チョムスキーは、インターネットの他にも、米国の「帝国主義」や中国の現状についても鋭い洞察を見せている。私としては、本書のなかではチョムスキーの章がいちばん読み応えがあった。本書はあくまで「知の巨人」のインタビューをまとめたものであり、本格的な解説書というよりは「読みやすい入門編」という位置づけだろう。著者の経歴の影響もあるのだろうが、本書で取り上げる「知の巨人」はいずれも米国の科学者であり、また、折しも米国の大統領選挙があった時期でもあり、米国の「知」の動向を知るには参考になる1冊ではないかと思う。
銀ベイビー 経済官庁 Ⅰ種