狩猟シーズンに聴きたい、ホルンが活躍するハイドンの交響曲第73番「狩」

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   11月15日は、日本の多くの地域での狩猟解禁日です。来年の2月まで、狩猟免許を持った人たちは、狩りをすることが許され、狩りの成果であるイノシシ肉を使った「牡丹鍋」などが、旅館の食卓に登場したりします。近年では、狩猟人口の高齢化、里山の消滅などの理由による熊の下山など、狩猟にまつわる暗い話題が続いていますが、秋が深くなり、狩猟が解禁されると、「大地の恵み」という言葉が思い浮かんだりします。

   日本の都市などでは、狩猟シーズンを実感するのが難しくなっていますが、ヨーロッパでは、狩猟はいまだに季節の大切な行事です。パリなどの大都市の中の精肉店でも、狩猟シーズンになると兎・鹿・野鳥・猪などのジビエ肉が並び、星付きのレストランでもごく普通にメニューに上がります。テレビでは「狩猟専門番組」が放映されていたり、誰にとっても身近な狩猟シーズンなのです。

  • 現代のフレンチホルン
    現代のフレンチホルン
  • 狩りに使われた狩猟用ホルンのいろいろ
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  • 狩りに使われた狩猟用ホルンのいろいろ
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演奏者の後ろに向かって音を出す理由

   欧州では、それだけ現在でも狩猟が盛んなわけですから、そこで生まれたクラシック音楽に反映しないわけがありません。事実、狩りをモチーフとした音楽はたくさん存在します。

   オーケストラの中でも活躍する金管楽器に「ホルン」という楽器があります。正式名は、「フレンチ・ホルン」といいますが、名前から、先祖は「角(ホーン)」、つまり角笛だったということが推測されます。金管楽器の中で、唯一、開口部が後ろに向いた楽器です。同じ「ラッパ」でも、トランペットやトロンボーンは皆、前向き、客席に向かって大きな音を出すのに、ホルンだけ、演奏者の後ろに向かって音を出します。金管楽器ですから大きな音を出すので、それでも十分聞こえますが。

   どうして後ろ向きかというと、これは狩猟のためなのです。馬に乗り、犬を連れて獲物を追う狩猟の行程で、「獲物発見!」などの合図を後続部隊に知らせたり、何より獲物を追う激しく揺れる馬上でしっかりと吹けなければなりません。そのため、最初は片手で持つ角笛だったものが、くるくる回った管を持ち、肩にかけて持ち運べ、後ろへ音を出す現在のフレンチ・ホルンに発展していったと考えられています。

狩りの女神が主人公だった

   そのため、作曲家が「狩り」をモチーフとするときには、ホルンを活躍させる楽曲になることが多いのです。今日取り上げる曲は、古典派の作曲家で、「交響曲の父」と呼ばれた、ヨーゼフ・ハイドンの交響曲第73番です。古典派の交響曲のスタイルの通り、4楽章からなりますが、最終楽章である第4楽章に、ハイドン自ら、フランス語で「La Chasse(狩り)」と書き込んでいることから、このニックネームで呼ばれます。実はこの楽章だけ、他の楽章の1年前、1780年に書かれたオペラ「報いられた誠」の第3幕の序曲を原曲として作曲されており、翌年に第1から第3までの楽章を書いて、オペラとは別の交響曲として成立させたものなのです。オペラの主人公が狩りの女神だったことから、ハイドンもそのような書き込みをしたのでしょう。狩りのシーンを彷彿とさせるような、ホルンのメロディーが途中に現れます。聴き手は、ホルンの響きを聞くと「狩りが始まるな・・」という感触を持つのです。

   もとがオペラの序曲だったという経緯もあり、普通、交響曲の終楽章は盛り上がって派手に終わる、というのが通例ですが、この曲はこのコラムで前に取り上げた交響曲「告別」と同じように、静かに、穏やかに終わります。

    実りの秋に、ジビエ料理などいただきながら、ゆったりと聴きたい古典派の佳曲です。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミ エ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソ ロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラ マ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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