狩りの女神が主人公だった
そのため、作曲家が「狩り」をモチーフとするときには、ホルンを活躍させる楽曲になることが多いのです。今日取り上げる曲は、古典派の作曲家で、「交響曲の父」と呼ばれた、ヨーゼフ・ハイドンの交響曲第73番です。古典派の交響曲のスタイルの通り、4楽章からなりますが、最終楽章である第4楽章に、ハイドン自ら、フランス語で「La Chasse(狩り)」と書き込んでいることから、このニックネームで呼ばれます。実はこの楽章だけ、他の楽章の1年前、1780年に書かれたオペラ「報いられた誠」の第3幕の序曲を原曲として作曲されており、翌年に第1から第3までの楽章を書いて、オペラとは別の交響曲として成立させたものなのです。オペラの主人公が狩りの女神だったことから、ハイドンもそのような書き込みをしたのでしょう。狩りのシーンを彷彿とさせるような、ホルンのメロディーが途中に現れます。聴き手は、ホルンの響きを聞くと「狩りが始まるな・・」という感触を持つのです。
もとがオペラの序曲だったという経緯もあり、普通、交響曲の終楽章は盛り上がって派手に終わる、というのが通例ですが、この曲はこのコラムで前に取り上げた交響曲「告別」と同じように、静かに、穏やかに終わります。
実りの秋に、ジビエ料理などいただきながら、ゆったりと聴きたい古典派の佳曲です。
本田聖嗣