障害福祉論議を開かれた、理に適ったものにする社会的基盤とは

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「障害の社会モデル」とゲーム理論

『障害を問い直す』(松井彰彦、川島聡、長瀬修編著)
『障害を問い直す』(松井彰彦、川島聡、長瀬修編著)

   『障害を問い直す』(2010年)もまた、ゲーム理論などで業績のある経済学者である松井氏と障害学の研究者の共同作業を通じて編まれた論文集である。

   論者たちは様々な指摘を行っているが、共有された論点のひとつが、障害を障害者本人の個人的、医学的な問題とするか、社会の側から(あるいは社会との関わりから)生ずる問題と考えるかという点である。例えば、足の不自由な方を考えた場合、医学上の足の機能の損失に着目するか、それともバリアフリーにはいまだ遠い社会の側にある問題と解するか。障害学の論者からは、おおむね、前者の「障害の医学モデル」から後者の「障害の社会モデル」への移行を図るべきだ、との考えが示されている。医学モデルが障害を個人の問題として障害者本人に封じ込めがちなのに対し、たしかに社会モデルに基づく方がバリアフリー投資などの対策は進めやすくなるだろう。

   松井氏はゲーム理論の成果を援用しつつ、(たとえ機能に差がなくても)差別行為を通じて偏見が生まれるメカニズムを分析している。こうした知見に基づき、「自立できない人」と一言で言うことに問題があるのであり、考えてみれば、我々はみな電車に乗らないと通勤もできないという意味で、人に頼って生きているのだから、できる限り、社会における「ふつう」の範囲を拡大し、「ふつうではない」という烙印を解消していくことを提唱する。ゲーム理論と障害学という異色の組み合わせを通じ、障害福祉を巡る論議が広い層からの関心を集める、「ふつうの議論」になることを期待したい。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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