誰もが一度は耳にしたことがある「運命の女神」
カルミナ・ブラーナは、もともと長い期間にわたって修道院に蓄積された時代も身分もまちまちな人たちのさまざまな言葉がもとになっていますので、オルフはそれを1つのカンタータにするために構成も考え出しています。第1部「春に」、第2部「酒場で」、第3部「愛の講義」と大きく3部に分けられた中にさらに細かい曲が配置されますが、特徴的なのは、それに付け加えて、最初と最後に、「運命の女神、フォルトゥナよ」という激しい合唱曲が演奏されることです。この曲は単独でも演奏され、大変有名で、数々の映画やドラマ、CM、さらにはスポーツ選手の登場曲などの「運命的な」場面で使われることが多く、誰もが1度は耳にしたことがある「カルミナ・ブラーナ」を象徴する曲となっています。
この曲が完成したのは1936年、初演は1937年で、ドイツは既にナチス政権下で戦争に突き進んでいました。政治が音楽に介入した当時のドイツですから、オルフは、政権を刺激しないように慎重に上演をしましたが、ドイツ国外に知られるようになるのは、戦後もしばらくした1950年代になって録音が国外に出回ってからでした。しかし、繰り返しが多く、リズムもクラシック離れして大変力強いビートを持ったこの曲は、ナチス時代のドイツで演奏されたことが、当時の状況を思い起こさせるとして、演奏を積極的にしない演奏家もいます。不穏な時代の空気の中、オルフはそのことを予見していたのか、まさに曲自体が「運命の女神」に翻弄されたのです。
しかし、中世の写本がテキストではあるが、シンプルかつリズミックなクラシック音楽としては斬新な「カルミナ・ブラーナ」は、21世紀の現在、大変人気のある20世紀音楽となっています。1曲目だけが突出して有名ですが、全曲を通して聴くと、さらに味わいが増します。
本田聖嗣