輝きを取り戻せないパリのノスタルジー
今日の1曲、クラリネット・ソナタも、そんなプーランクの二面性を端的に表している曲と言えます。ピアノとクラリネットという2つの楽器が、ふざけあうように諧謔的に始まったかと思うと、悲哀を感じさせるしみじみとしたメロディーをクラリネットが奏でます。気まぐれに楽想を替えつつ、最後まで、快活さを湛えた曲なのですが、聴き終わるとどこかメランコリーな気分になります。
この曲は、プーランクの最晩年に書かれ、最後のソナタとなった曲なのです。直接的には、6人組というグループの仲間であり、かけがえのない友人だったオネゲルの墓前に捧げられた曲なのですが、クラリネット・ソナタという曲の形式は、サン=サーンスやブラームスなどと同じく、人生の最晩年・・・プーランクにとっては死のまさに直前に作曲されているため、彼自身の人生の回想が込められているような気がしてなりません。
一見華やかに見えるパリとパリの文化は、20世紀前半に苦難の時代を経て、ついに19世紀後半の輝きを取り戻すことはなかったわけですが、プーランクのこの曲にも、そんなノスタルジーを感じる部分もあります。夏が終わり、秋の入り口のこの時期に、しみじみと聴きたい曲です。
プーランクはこの曲の初演を見ることなく亡くなりました。1963年、彼の死から3か月後、初演されたのは、フランスを2度の大戦から救ってくれた国、アメリカはニューヨークでした。演奏者は、クラリネットがベニー・グッドマン、ピアノがレナード・バーンスタインという、20世紀アメリカを代表する2人でした。
現在では、クラリネット・ソナタの代表作品の一つとして、数多くの音楽家が演奏する重要なレパートリーとなっています。
本田聖嗣