■「東京飛ばしの地方創生―事例で読み解くグローバル戦略」(山﨑朗・久保隆行共著)
「新書大賞2015」の第一位に選ばれた「地方消滅―東京一極集中が招く人口急減―」(増田寛也編著 中公新書 2014年8月)で、「消滅自治体」と名指しされた、地方自治体関係者へのインパクトは大変なものだ。まずは、定住者を増やそうと必死の努力を開始している。
しかし、優れた視点で知られる「ちきりん」が2016年4月9日付ブログ記事(Chikirinの日記)「地方自治体の消滅こそ社会の進歩」で指摘するように、明治期に7万あった自治体は、現在1700になっている。これは、地方が衰退したからではなく、「『自治体の存在意義』が農業共同体の維持から、近代国家の土台作り、先進国レベルの行政実現へと変遷し、『利用可能な技術のレベル』が、人力だけの時代から、動力(電車、自動車など)や通信(電話)が利用できる社会へと変わってきたから」とし、「今後も新たに登場したモバイルインターネットや人工知能などの先端技術を積極的に活用すれば、最適な自治体数はさらに減っていきます」という。そして、「『地方を再生させる』とか『地方を元気にする』みたいなのは、どんどん進めればいいんです」という。
「直接、海外に目を向け、勝負するべき」
まさに、この8月に「東京飛ばしの地方創生―事例で読み解くグローバル戦略」(山﨑朗・久保隆行共著 時事通信社)が出た。本書担当の永田一周氏は、若者の定住、企業や学校の誘致など、現在の「地方創生」の施策として行われているものは、「俯瞰すればどれも国内の構造改革や地域間競争であり、人口減少が避けられない中では、根本的な解決にはなりません」とし、「地方創生関連本の多くは東京一極集中を問題視し、東京から地方に資産を分散することを重点課題としています。本書は違います。地方は『東京』をすっ飛ばして直接、海外に目を向け、勝負するべきと主張しています」と紹介する。本書の帯にある、「デフレの正体―経済は『人口の波』で動く」(角川oneテーマ21 2012年10月)や「里山資本主義」(同 2013年7月)で著名な藻谷浩介氏(現・日本総合研究所調査部主席研究員)の、「島国に引きこもるな。国際的視野を持て!」という推薦のことばが目を引く。
「発展なき衰退」の可能性がある地域とは
確かに、東京の力を削いでしまっては、「角を矯めて牛を殺す」といった類の話になってしまう。いかに「世界の東京」の力を維持しつつ、地方を元気にするかが問われている。「物価や家賃の安い地方なら『年収150万円でも自由に生きていける』と感じられるのは、地方交付税、公共事業や農林水産省による手厚い就農支援金、ふるさと納税などによって、東京圏等で得られた税収の一部が、地方に再配分されているからです」という著者の指摘は重い。本書では、東京から離れた国土の末端地域に位置している、北海道、福岡、沖縄の3地域に焦点を当てる。「地方創生のメインエンジンは、グローバル戦略とイノベーション戦略」だという。逆に、旧来型の地域活性策による、「発展なき成長」・「縁辺化する地方」の典型で、いまや「発展なき衰退」へ移行する可能性がある地域は、東北だという。また、「グローバル戦略」では、グローバル化を管理する政府の役割が重要だと指摘する。
なお、藻谷氏による対談本「しなやかな日本列島のつくりかた」(新潮社 2014年3月)や「和の国富論」(同 2016年4月)に登場する、「東京」にこだわらない、「現智の人」(特定分野の『現場』に身を置いて行動し、掘り下げと俯瞰を繰り返した結果、確固たる『智恵』を確立している人)の、真のイノベーティブなありように触発されるところは多い。
経済官庁 AK